【ライヴレポート】MUCC現る。新世代ヴィジュアル系登竜門「KHIMAIRA vol.6」“あれが未来の僕たちです!”250キャパシティで浮き彫りになった誇りと系譜。
ヴィジュアル系若手対バンシリーズ「KHIMAIRA」もついに第6弾。
先に発表されている12月1日「KHIMAIRA-SCUM PALACE-」Spotify O-WEST公演前、最後の公演となる。
新世代ヴィジュアル系元年総決算を前に、池袋EDGEシリーズ最後の刺客として現れたのは驚きの存在だった。当然、この日に用意された250枚のチケットは10秒で完売。狭き門となった。
出演したCHAQLA./MAMA./NAZARE/「#没」にとっても、その存在はあまりに強大かつ敬愛に満ち溢れたものでもある。
だが、たった一夜の思い出作りにその男たちは付き合う気はない。
明確な意志を確かめるためにこの空間に現れた。
愛しているからこそ立ち向かうべき存在。
かつてない最強のバンドを前に新世代は何ができたのか。
その結末をここに記す。
●NAZARE
1番手を務めたのはNAZARE。
明滅する照明とトランスのSEが超満員のオーディエンスをNAZAREの世界に誘う。
静かに、だが熱をうちに秘めメンバーは現れた。様々なタイプのシャウトを使い分ける澪(Vo)の叫びを合図に「Rewrite」からスタート。
メタリックな音像が個性のNAZAREだが、重心の低い弦楽器隊と力感なくしなやかに狂暴なサウンドで迫りくる壱世(Dr)のコントラストも印象的だ。
ヘッドレスの8弦を操る妖(Gt)と同じくヘッドレスの5弦のうた(Ba)はスキルフルなだけでなく視覚的にも存分に楽しませてくれる。
“トッパーだからってナメてんなよ!”といつもの調子で観客を煽り倒す澪だが、直前まで南米ツアーを敢行していた影響か以前よりもパフォーマンスが開けた印象があるのも事実だ。
楽器隊がアイコンタクトを取り笑顔を見せる場面も増え、バンドとして良い意味で角が取れた印象すら見せた。
通常はMCを設けないスタイルだが、この日はどうしても特別な思いが隠せなかった。
自身もこの後登場するカリスマから多大な影響を受けていることを明かし、“インストアイベント行って、ミヤさんに対バンしようって言ってもらったんだよ。夢叶ったんの!俺今日夢叶ってんだよ!俺も茨城出身なの!後輩なんだよ!”と吠え、同郷の偉大な存在への愛を伝えた。
もちろんこのラインナップに満足しているわけでもなく、思いあがっているわけでもないが、素直な喜びは溢れ出た。
だが、そこはNAZARE。ハードながら抜けたキャッチーさで揺さぶる「Break it down」、不穏な鐘の音からファストに展開した「幸福論」では幾度も澪がホイッスルを決め、溢れる想いを極悪な音に変換して駆け抜けてみせた。
この日の出演者で最もヘヴィネスに傾倒したサウンドメイクだが、オリエンタルな要素も含め海外公演の経験を活かし今後どのように変貌するのか期待したい。
●「#没」
KHIMAIRA初登場となる「#没」。
九州福岡を拠点にする4人にとって東京でのライヴもこれが4度目のこととなる。
気合い入れの雄たけびが幕の向こうから漏れ聞こえてくるほどの気合いの入れっぷり。赤いエナメルにスタッズをあしらった揃いのコスチュームは、新しさというよりはむしろ古き良き懐かしさを感じさせるものだ。正直のところ序盤は会場全体を巻き込むには至らなかったが、その実直な人間性香るステージは時間の経過と共に波及していった。
“今、最高に綺麗やけん!もっといけるだろ?”等の煽りからも顕著に纏うオーラは明らかに陽のものだ。“僕たちは没になりました”のコール&レスポンスで沸騰させた「#没個性障害」やレトロな「チヨコレヰト パレヱド」と様々なタイプの楽曲でおもちゃ箱をひっくり返したようなステージを披露した。
この日この場所に立てる喜びを噛み締めながらも、どんな結果を残すかが大切なことを理解し自分たちの個性を発揮する。シンプルでいて簡単なことではないが、彼ら4人のピュアな熱意はそういったハードルをぐいぐい超越する異様な人懐っこさが垣間見える。
“みんながヴィジュアル系好いてくれて、愛してくれとうけん今日ここに立てました!”熱く語ったかと思えば“勝ち負けじゃんこの世界。負けたヤツからフライヤーから名前が消えるし、解散していく”と冷静な言葉も述べた。
ラストは三三七拍子からメロコアに転じる「劣等プロパガンダ」。全身全霊という言葉が当てはまる、とにかく馬鹿正直なライヴは誰しもの胸の奥に眠る琴線に刺さるものだったのではないだろうか。
“最強の田舎モン”と自称する彼らだが、主催以外で東京のライヴ出演は初めてとのこと。確かに粗削りではある。だが、ホームとは言い難い環境をひっくり返して見せる底抜けに真摯な人間力は本来ロックバンドのあるべき姿で実に見事だった。
12月1日Spotify O-WESTでジャイアントキリングが起きるのか楽しみだ。大きな可能性を感じるバンドが現れた。
●MUCC
3番手で遂に登場したのはMUCC。
出演が発表された際からこのキャパシティにMUCCが出演することは大きな話題を呼んだが、SEの「ホムラウタ」に合わせたクラップに会場が包まれリラックスした様子のメンバーが現れても不思議と非現実感は起きない。当たり前だ、これは紛れもない現実なのだ。
“MUCCです。KHIMAIRA初登場、よろしくお願いします”
逹瑯(Vo)の謙虚な第一声を耳にし、初期のMUCCもこんなキャパシティで対バンに出ていたのか…そんな想像しているところにYUKKE(Ba)のスラップが飛び込んでくる。そう、まさかの「大嫌い」だ。その轟音に呼応するようにフロアは早くも狂熱に襲われクラウドサーフとモッシュが巻き起こる。
ミヤ(Gt)の“池袋!!”のアジテーションに続いたのは「サイコ」。この時点で、手心を加える気など一切ないことがわかる。
メンバーも揃いの衣装ではなく比較的なラフな出で立ちで、このキャパシティと対峙している。サイレン音と赤いサーチライトが焦燥感を掻き立てる「サイレン」から「愛の唄」と続く鉄壁の流れは夏のツアーで培ったものだが、楽曲や演奏の強度は無論のこと、曲間に一切の淀みなく一瞬たりとも隙がない。
退廃と愛が情念深く絡みつく逹瑯の歌唱が極上な「愛の唄」の気だるい重厚感は、模倣することすら許さない強烈な説得力を放ち、人生で初めてMUCCを観る者にも大きなインパクトを残したことは想像に難くない。
実のところ、MUCC出演発表と同時にチケットがバーストしてしまうことが想定されていたため、MUCC出演を明かす前に4バンドのみで先行予約を行っていた。結果から言うと250キャパにも関わらず会場の半数以上はMUCC以外のバンドを目当てに訪れているという稀にみる状態。このホームともアウェーともつかぬ場でMUCCが選んだのは正々堂々とベストメニューで対峙することだったが、その圧倒的なスケール感は場所や層を選ばず全てを飲み込んだ。
“俺らがガキの頃にこんなイベントがあったらアガったんだろうな”
そう言葉を挟み披露されたのは「ニルヴァーナ」。その眩さの前にはどのバンドが目当てかどうかはもはや関係なく、これが対バンライヴであることを忘れさせるぐらいの温かい大合唱に包まれた。
「愛の唄」が持つ淫靡で奥行きのある世界、「ニルヴァーナ」が有する黄金のメロディと光はそれぞれが全く違う手触りだが、ことKHIMAIRAに置き換えると、若いバンドに対して“こんな曲もいいでしょ?”と問いかけるようにも思えた。まさに喉から手が出るほど羨ましい武器を見せつけ、年輪だけでなくMUCCの音楽的探究心の足跡を存分に体感させたところで後半戦へ突入。
残された時間で一気に畳みかけるように、いまだにライヴの定番でもあるインディーズ1stシングル「娼婦」、トドメにメジャー1stアルバム『是空』収録の「蘭鋳」が炸裂。
恐らく池袋EDGE12年間の歴史上、類を見ない空間となったのではないか。
これまでセッションバンドやカヴァーによる「娼婦」や「蘭鋳」は幾度もあったが、この夜鳴ったのは紛れもない本物のMUCCだ。
メンバーはそれぞれにこの時間を謳歌しているように見えたが、それはキャパシティだけでなく、若手との対バン…それも3番手としてあくまで並列に出演していることによるところが大きかったのではないか。トリではない理由は、結成初期の空気を感じたかったのか、それともこれからを担うバンドに自分たちの前後を背負わせたかったのか、あるいはその両方だろうか。
ラストはまさかの「アカ」。
最後まで一切の容赦なし。
ここまで起きた全てを塗りつぶすように重苦しい空気だけを充満させ、MUCCは静かに去っていった。
●MAMA.
凄まじい余韻のなか現れたのはMAMA.。
深緑の光と共に闇へ誘うのは「業」。極めてバッドな精神状態に自らを再憑依させ地を這うように感情を叩きつける命依(Vo)。過度な集中力を擁する「業」は彼らにとってもここ一番で切られる1曲だが、超満員のフロアに媚びることなく満身のダウナーチューンを冒頭から叩きつけその覚悟を示してみせた。
“かかってこいよ!負けんなよお前ら!”と鼓舞した「MARIA」、アッパーな「アシッド・ルーム」と容赦なくホームグラウンドのように会場を熱狂に巻き込んでいく。
ストイックだが陽気な振舞いが好意的な違和をもたらすJiMYY(Gt)の安定感、対照的にシニカルなステージングで引き込むかごめ(Gt)、奥行きの増した表現力とサウンドの立ち方が抜群の真(Ba)ら成長著しい楽器隊も素晴らしかったが、限られた時間の中、たゆまぬ努力で複雑な楽曲に魂を吹き込んだ或(Support Dr / ex.孔雀座)には賛辞を贈りたい。
▲JiMYY(Gt)
▲かごめ(Gt)
ブレイクでマイクを向けられたJiMYYが“いやぁ~MUCCかっこよかったですねぇ…あれが未来の僕たちです!”と応えると間髪おかず“もっといける!”と吠える命依に喝采が贈られた「命日」、“MUCCの次、かましてやりましょう!若手4バンドいるんだから力合わせて勝とうよ!”とイベントの趣旨を背負い疾走した「僕らの病名は「人間」でした。」、凄まじい殺気で飲み込んだ名曲「NOPE.」まで圧巻のステージを見せつけた。
▲真(Ba)
▲或(Support Dr)
前回の「KHIMAIRA vol.5」を最後に急なメンバー編成の変更が生じ、彼らにとって手負いの状態で歩んだ1ヶ月だった。MUCCと相対する余力は正直なところ残っていなかったはずだが、「アシッド・ルーム」で歌われる“誰もが何か背負ってんだ”を体現するように、MAMA.は挑戦者ではなく、KHIMAIRAの王者としての誇りと共に、35分問答無用の超完全試合でアンサーしてみせた。
●CHAQLA.
トリを務めるのはCHAQLA.。
幕が開くとドラムセットに集まった5人が円陣を組んで気合い入れをする姿が。
彼らのライヴで時折目にする光景ではあるが、この1日のトリを託されたことへの覚悟、何より集まったオーディエンスと新世代シーンとしてのプライドを高らかに宣言するようにも感じられた。その証拠に1曲目から日頃ラストに披露されることが多い「PLAY BACK!!」をドロップし好戦的な姿勢を見せる。
音楽的にはミクスチャーと表現されることの多いCHAQLA.ではあるものの、そのド派手なステージとアートワークは何にも囚われない自由な思想によるもので、結成から2年を待たずしてすでに無二の存在として君臨する。
“負けるわけにはいかねえんだよな”の発言通り、彼らもまたエースとしてこのイベントを牽引してきた自覚と共に「首魁の音」、「太陽の悪魔」と斬新さだけでなく、そのダイナミズムで会場を一つに束ねあげた。
▲ANNIE A(Vo)
MC代わりに導入したフリースタイルラップも意表を突くものから、お馴染みのパフォーマンスとなってきたが、結成以来センセーショナルだったCHAQLA.は今まごうことなき過渡期に突入している。そして、その移り変わる時期を彼ら自身が享受するように過ごしていることもわかる。鍛えぬいた楽曲の強化、崇高な信念の研磨、こと、神は細部に宿るとは言うがまさにその修行のさなかに身を置いているのだろう。
▲のあか(Gt)
▲kai(Gt)
▲鷹乃助(Ba)
▲Bikky(Dr)
パンキッシュな「愛」において、ANNIE A(Vo)の“よく聴いとけ!“に導かれたkai(Gt&Cho.)の”こんなもんじゃ全然足りねえ!“に象徴されるように、ヴィジュアル系ロックバンドとしての誇りは抱きつつも、他者との作用ではなく自己の精神世界と向き合うことで存在を高めていくのがCHAQLA.のオリジナリティだ。
“ヴィジュアル系の未来へ向かって走ろうぜ!“と告げた「BACK TO THE FUTURE」。
アンコールの「リーインカーネーション」まで終始トリに相応しい熱狂を巻き起こした。まさに未来は此処に在る、そう証明するステージではなかっただろうか。
MUCC出演というビッグサプライズ。
それも大トリでもなければ、SPECIAL GUESTでもなかった。
出演した5つのバンドにはそれぞれの出順に意味がある。そしてそれぞれのバンドがその理由を咀嚼した結果、<MUCC vs 若手>でもなければ、5組による世代を超えたハートフルイベントでもないことは明確に伝わったのでないか。
MUCCという偉大なコアから放射された新しい4つの衛星。個々にオリジナリティを持ち、個々に拠り所がある。そしてその中心にはMUCCがいる。
もちろん模倣ではなく、精神性において。
MUCCにとっては新世代ヴィジュアル系バンドから自分たちのDNAを感じたかも知れないし、あくまでオリジネイターとして活動するCHAQLA./MAMA./NAZARE/「#没」は己の根源に眠る無限の可能性を知ることとなったともいえる。
MAMA.のJiMYYが言い放った“あれが未来の僕たちです!”はまさにそのコアとの邂逅そのもので、強固な信念があれば無二の存在へなれることの証明でもある。
そしてそれは時代や境遇に冒されることのない“聖域”なのだ。
新世代若手対バンシリーズKHIMAIRAはついに12月1日、聖地・池袋EDGEからSpotify O-WESTに歩を進める。
「KHIMAIRA-SCUM PALACE-」、それは信念のもと時流にナカユビを立てるクソッたれ共の巣窟。
時代の幕開けを賭した、新世代ヴィジュアル系元年最終決戦をその目に焼き付けてほしい。
Text:山内 秀一
Photo:A.Kawasaki
SET LIST
●NAZARE
1.Rewrite
2.a Vain you.
3.INSOMNIA
4.IDEAL
5.INNOCENCE
6.我、愛された修羅
7.Break it down
8.幸福論
●「#没」
1.「■開■」
2.ドグラ・マグラ
3.赫いリボンと、青い舌
4.「#没個性障害」
5.チヨコレヰト パレヱド
6.画鋲とオトメ
7.劣等プロパガンダ
●MUCC
1.大嫌い
2.サイコ
3.サイレン
4.愛の唄
5.ニルヴァーナ
6.娼婦
7.蘭鋳
8.アカ
●MAMA.
1.業
2.MARIA
3.アシッド・ルーム
4.PINK MOON.
5.Psycho
6.僕らの病名は「人間」でした。
7.NOPE.
●CHAQLA.
1.PLAY BACK!!
2.首魁の音
3.太陽の悪魔
4.SINK SPIDER
5.ミスキャスト
6.愛
7.BACK TO THE FUTURE
EN1.リーインカーネーション
■KHIMAIRA -SCUM PALACE-
2024年12月1日(日)Spotify O-WEST
<出演>
CHAQLA.
MAMA.
nurié
色々な十字架
「#没」
and Secret
●OPEN 15:15/START 16:00
【チケット料金】
前売り:¥5,400(税込)
※オールスタンディング ※入場時ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可・営利目的の転売禁止
※チケットはスマチケのみ
一般発売中
https://eplus.jp/khimaira/