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【YUKI】ライヴレポート◆2024年11月09日(土)池袋EDGE◆威風堂々完全復活!aRaise/rice/Raphael、時を超えて繋がる音楽。「明日からまた4年目の生きる時間が始まる」

“今日は来てくれてありがとうございました。4年目もよろしくお願いします!”
この夜のラストシーンだ。
3年を満たし、明日から4年目を歩んでゆく。
無論、YUKI / 櫻井有紀という稀代のヴォーカリストが一度はその声を失い、再び取り戻した日からの足跡のことだ。
2021年に喉頭癌を患い、その生命と向き合ったここまでの日々は正直なところいかなる想像を張り巡らせてもはかり知ることはできない。声帯白板症から前癌状態になった時まで遡るともう5年になる。
この日の公演タイトルは <声帯音存参周年記念式典 『OH HAPPY DAY!!』>
彼が音楽と対峙してきた一つの節目であり、待望の祝祭である。
結論から言えば、aRaise / 櫻井有紀 / YUKI-starring Raphael とこれまでのキャリアを総ざらいする構成のなか、YUKIは堂々たる驚異のヴォーカリゼイションで満員のオーディエンスを圧倒した。まさに威風堂々、異次元の復活劇。だが、死力で取り戻したその“声”以上に強烈だったのは、その生き様とミュージシャンシップだった。
ハートフルで、ときにユーモラス。幸せに満ち溢れた時間の模様を本レポートでお届けする。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

会場は満員。
定刻を迎える頃は入りきれないほどの聴衆が詰めかけた。
音楽活動を再始動後、これでもかというライヴスケジュールで勢力的に活動しているYUKIだが、彼にとっても彼を支持する者にとってもこの日がひと際重要な意味を持つことが伝わる。

この日は大きく2部の構成に分かれていたが、黒を基調にしたサポートメンバーとクラップに招かれたYUKIは白を基調にした真新しい装いで登場。“男の子!女の子!”と耳に手を当て歓声を確認するが、実際のところフロアには世代性別国籍を問わず多くの層が混在し、YUKIを求めていることがわかる。
“みんなの応援のおかげで今日まで生きています。飛ばしていこうか池袋!”と疾走する「stream」からスタート。轟轟しいサウンドとポジティヴな詩世界の調和は序曲として相応しいものだが、YUKIの表情は鬼気迫るものでこの夜に賭ける想いが伝わる。メンバー紹介を挟んで続いた「dice」でも張りつめた緊張感が襲う。


「racket」では跳ねるリズムで揺らしたが、この日1部のゲストとして共演することになった景夕(Kra)とのツインヴォーカルのケミストリーは見事で、オペラティックな崇高さを持つ掛け合いは互いの魅力を増幅させるものだった。
MCではようやくYUKI節を発揮し“少し水増しして、ライヴレポートにはチケット即完って書いてください。いや、即完との噂って書いておいてもらいまいしょう!(笑)”とユニークに笑いを誘う場面もあった。実際のところ満員の観客を温めたところで、「Never」へ。


シンフォニックかつ力強さが心を震わせるが、繊細に寄り添う叙情的なメロディは美しく、観客のシンガロングも発生。この時点でYUKIの歌声は芳醇で分厚い壁のようにそびえたつもので、正直圧巻と言う以外に表現することのできないものだった。「Never」は数ある彼のレパートリーの中でもハイレベルな歌唱を要求されるものだが、活動再開後もセットリストに組み込まれることが多く、そのうえ音源以上のクオリティで披露され続けている。まさにシンガーとして進行形であることを体現する1曲だが、歌詞の“空を仰げば華弦の月”に導かれるように続いたのは「Ending~華弦の月~」。スキルフルなプレイとメタリックな音像がドラマティックに展開していく様は至高であると共に、“僕の声は聴こえているかい?”と問いかける言葉がこの日はどうしても異なる響きをする。

ここで盟友の景夕を送り出して披露したのはもちろん「Love story~悠久の四重奏~」。2016年に世に放たれた楽曲は「Ending~華弦の月~」と共にRaphaelの最新にして最後の曲だ。感無量のYUKIは涙を堪えることができなくなり、その温かいバラードが終わると鳴りやまない拍手が巻き起こった。組曲のように連なった「Never」、「Ending~華弦の月~」、「Love story~悠久の四重奏~」をYUKIは「夢より素敵な」の歌詞になぞらえて「Never Ending Love story」と名付けた。決して終わらない愛の物語にはいずれも仰いだ空に“華弦の月”が笑っている。うつろいゆく時のなかで人はいずれ息絶える、声もいつか枯れる、だからこそその日まで枯れない想いで音楽を奏で続ける強靭な覚悟を見せつけた万感の3曲は、ヴォーカリストYUKI、人間・櫻井有紀がなんたるかが詰まった珠玉のブロックだった。
感極まった姿を隠さないまま、切ないメロディに哀愁が漂う「秋風の狂詩曲」、そして3年前の12月に高田馬場で歌唱に挑戦した際に、“カラオケキーで4つ下げてもワンコーラスで喉が枯れてしまって悔しかった”という曲を原曲キーで届けると宣言した「凛」。

“人生まだまだ面白くなってきた”
“大きく変われると書いて大変なんだ”

そう明るく述べた後に届けられた「凛」、その途中ではついにオフマイクで歌い上げる姿も。

十二分にその力で染め上げYUKIはステージを去った。

しかし、この夜には第2部が設けられている。
と言ってもわずか10分ほどのインターバルで「Air variation」からお馴染み「シナゴーグ前奏曲イ短調~第一楽章~」にSEが切り替わると一気に焦燥感が増していく。
2部のサポートメンバーがそれぞれ口にくわえた薔薇を投げ込むパフォーマンスで沸かすと、YUKIは紫色をベースにしたドレッシーな衣装に身を包み再登場。


「シナゴーグ前奏曲イ短調~第一楽章~」に誘われるように2部はRaphaelの楽曲が中心となった。シンフォニックメタルが爆走する「花咲く命ある限り」では、ゲストヴォーカルの団長(NoGoD)のハイトーンも冴えわたり一気に攻撃的にシフトしていく。この時、客席後方を指差し驚いたように笑顔で執拗に煽るYUKIの姿もあったが、その理由は後ほど明らかになる。
よりフィジカル的なエネルギーを要する「「・・・」~或る季節の鎮魂歌~」で会場を揺らすと、続いたのはまさかの「小夜曲~悲愴~」。儚く疾走する叙情的なクラシックメタルにフロアは沸き上がった。
さらに会場を破壊すべくついに「Gebet~祈り~」を投下。
“飛ばしていこうぜお前ら!すべてを曝け出せ!”とアジテートされるまでもなく、頭を振りしきり凄まじい風速で盛り上がりを見せる。今年4月にYUKI-Starring Raphael-名義で同会場に登場した際もラストナンバーとしてドロップしたキラーチューンは、テンションの上がったYUKIと団長が交互に繰り出すシャウトと相まって熱気はこの日最高潮となる。


“お前ら声を聴かせてくれよ!”、“もっとYUKIさんに聴かせてあげちゃってちょうだい!”で雪崩れ込んだのは、待ってました!の「症状3. XXX 症」。伸びやかなで抜群の声量に対する、尊敬と信頼を感じるタイトで気迫のこもった演奏も特筆すべきものだった。会場中から拳と声があがる光景も壮観だったが、思えばYUKIのケースとは異なるが、コロナ禍のここ数年は観客も別の形で声を発することを奪われていたのだと思い出す。今さら言及することでもないが、世の中に当たり前なんて存在するわけもなく、この場で巻き起こる一つ一つが同じ時代に共鳴したことで成立する奇跡なのだ。それはYUKIがその中心にいることや、Raphaelの楽曲がプレイされていること以上にプリミティヴなことである。求め合い、与え合う。そんな関係と時間はシンプルに美しく眩しい。茶目っ気あるイジりと、秀逸な返しで会場をポジティヴィティに溢れさせたトークで団長を見送るといよいよ終盤へ。


ここでYUKIがマイクを取る。



ソロ活動を始めて喉の不調が自分でも自覚が出てきて、お医者さんに前癌状態…要するにこのまま進行すると癌になる病気なんだよねって言われて。白板症って言って声帯が真っ白く固まって動かなくなっていって。最初に“あいうえお“の“あ”の母音の裏声から出なくなっちゃった。そのうちに「いつも声枯れてるけど大丈夫?」って聞かれるようになって。だんだん不意になんでもない時にすごい痛みが走るようになった。最初なんだろうなと思ったんだけど、それが日に何回も、最後は日に何百回も。そのうちに人と話すことも億劫になるし、呼吸をするのがどんどん苦しくなってきた。息を吸えないし、吐けない。でも、ライヴは発表しているスケジュールがあるから、どうにかだましだまし…サビのメロディがどうしても歌えないから“あ”の裏声は出ないけど“う”だったらいけるかなとか…あとはすごい全く本意じゃないんだけど、出ないことがわかっている部分を歌詞忘れちゃったフリするとか……どんどんどんどん自分で自分をごまかさないと、もうどうにもならない時期があって…。そんな時期に良かれと思ってだと思うんだよね。もちろん愛のある言葉だとして受け止める余裕が僕の中になかっただけなんだけど、「最近、歌、手抜いてませんか?」っていうお叱りのお便りをいただいたことがあって。言えないんだよね…。違うんだ、そうじゃないんだ。体に異変が起こってるんだよ、病気なんだよって、言えないんだよ。言われたら多分困らせちゃうしね。自分の中で悔しさ、もどかしさ、虚無な感じもたくさん襲ってくるんだけど、じゃあ今の自分に何ができるんだろうって思った時に…そういう気持ちも、誰かが僕のために送ってくれた言葉も全部受け止めながら生きていこうと思ったの。だけどやっぱり僕も生身の人間ひとり。人間ひとり頭ひとつ心ひとつだから苦しいの。苦しいなと思ったものをどうやって消化していこうかと思ったときに、もう1回原点に立ち返ったんだ。僕はシンガーで、そして僕はミュージシャンだ。僕はアーティストじゃないかと思った時に、形に残そう、言葉を残そう、自分で歌うことができなくなるかも知れないけど旋律を残そう、曲を書こうと思ったんだよね。そんなときに生まれてきてくれて、生まれた当初は全く自分で歌うことができなかった曲があります。今日はそんな曲をこの舞台の上で、この3年間…もっと前か。闘病が始まったのは癌の2年前だから5年間か。5年前の自分に向き合いながら今の僕の最高の歌のパフォーマンスで、今日もてる最高のパフォーマンスでみんなに贈りたいと思います。聴いてください。_____________YUKI 「larme」前のMCより。



声が出ない状況の中で原点に立ち返って生みだした曲と紹介された「larme」。
フランス語で涙を意味する楽曲を雨に置き換えて届けるナンバーだ。肌に寄り添うように優しく温かく、世の摂理を否定することなく受け入れる慈愛と覚悟に包まれた旋律はあまりに美しい。その歌声はこれまでの道のりを全て肯定することで、この先を指し示すものだったのではないか。ギタリスト・RENOによるアドリブのトレモロ奏法がステージ上の信頼関係を体現した「calm」とaRaiseの温かい楽曲に続いた最後は、riceの「Fake star」。光差すフィナーレで全16曲を駆け抜けた。


ほどなくして起きたアンコールでは、ラフなTシャツ姿に着替え安堵の表情を見せると“今日のライヴ、人生で一番盛り上がってるよ”と本音を吐露。
「星に願いを」、「STAY」とリラックスした様子で明るい空気を振りまいた。せっかくの記念祭を湿っぽい空気で終わらせたくないというアティチュードはYUKIらしさであるが、景夕と団長を招き入れたジャムセッション中に突如ステージから消えたかと思うと、体操着にブルマというあまりに意表を突く出で立ちで登場。


団長の“え?このままやるの?”のツッコミもどこ吹く風で「darling」をプレイ。感動的な空気も最後に一気に有耶無耶にしてしまう茶目っ気も“らしさ”満載のYUKI劇場で手が付けられない状態に。“性癖満たされました”と笑いを掻っ攫う。これが櫻井有紀のステージなのだ。
さすがに最後は再度着替え直し登場。オーラスは“明日からまた4年目の生きる時間が始まるんだよ。最高じゃん”と感謝を告げた「夢より素敵な」。ステージもフロアも笑顔が咲き乱れるなか、2部の冒頭でYUKIが煽っていた客席後方から1人をステージに招き入れる。
実はお忍びでこの日を見届けに来ていたYUKITO(Raphael)だった。“今日来てくれてると思わなかった”とYUKIがステージに呼び込んで抱きしめ合い感動のフィナーレとなった。


一度は失いかけた声を取り戻し、やっとのことで発声できる日々を乗り越え完全復活ともいえる3時間20曲の歌唱で君臨したYUKI。
もしたとえ声が出なくても、音楽を奏で表現し続けていただろう。だからこそ運命は彼から音楽を奪えなかった。
そう考えると、その呼吸も鼓動も全てが彼の声なのだと思う。
YUKIがこの日に提示したものは“諦めなければ何かが叶う”ではなく、“諦められないほどに大切なもの”だった。それは音楽であり、言葉であり、愛だ。満員のオーディエンスと、信頼一つで集ったサポートアクトという名の仲間が結んだこの空間こそがその答えだ。2025年にはフルアルバムの制作も志しているという。
進行形で進むYUKIの次なる季節を心待ちにしたい。



Text:山内 秀一
Photo:Lestat C&M Project

SET LIST

SE : Plage

M01. stream
M02. dice
M03. racket
M04. Never
M05. Ending~華弦の月~
M06. Love story~悠久の四重奏~
M07. 秋風の狂詩曲
M08. 凛

転換SE : Fake star

SE : Air variation ~ シナゴーグ前奏曲イ短調〜第一楽章~

M09. 花咲く命ある限り
M10. 「・・・」~或る季節の鎮魂歌~
M11. 小夜曲~悲愴~
M12. Gebet~祈り~
M13. 症状3. XXX 症
M14. larme
M15. calm
M16. Fake star

SE : epilogue=はじまりの詩=

EC1. 星に願いを
EC2. STAY
~BAND SESSION~
EC3. darling
EC4. 夢より素敵な

END SE : Beat2018

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