【櫻井有紀】スペシャルインタビュー◆病魔から復活した天使の足跡。Raphael・rice・aRaiseの時間軸と未来への地図。「歌えるだけ歌ってこうって思うようになった」

こんな世界線もあったんだ
────再びの発声は“え?”だったんですよね。
YUKI:そうそう(笑)。お医者さんに「多分声出るから、“あ”でも“う”でもいいから声出してみて」って言われたのに出てきたのは何故か「え?」だった(笑)。それで思わず笑っちゃたんだけど、お医者さんも「あぁ、笑えるね」って。
────そこからサックスとかもやるようになったんですか?
YUKI:いや、サックスはその前から。自分の声が失われたとしても、アイデンティティというか僕らしさのあるビブラートラや息づかいを表現するには何ができるだろうと思って。元からリコーダーとかオカリナとか好きなんですけど、重厚なバンドサウンドにリコーダーでは敵わないので、たとえ歌えなくなってもセンターに立ちつづけることができそうな楽器として金色に輝くサックスに挑戦したんです。今、お世話になってるサックスの先生も最初すごい戸惑ったと思うんですよね。派手な見た目でニヤニヤしながら普通にレッスンスタジオに来るのに一言も喋れないし、朗読アプリで“よろしくお願いします”みたいに表示してコミュニケーションする感じだったから。
────しかし、逃げるために始めたはずのベースもピアノもサックスも今のライヴ活動の武器になってるんですよね、結果として。そして実際に歌い出したのが…。
YUKI:2021年でしたね。12月。
────そこから今に至るまで再びシンガーとして歩んでいる。とは言え、今年めちゃくちゃ精力的に活動されてるじゃないですか。
YUKI:そうですね。11月9日のワンマンの前日も対バンで。その前々日も対バン。ワンマンの翌日もライヴしてました(笑)。
────やりすぎですよ(笑)。ここまで精力的な活動に踏み切った理由を教えてください。
YUKI:自分の熱源はどこなんだろうっていうのと、本当にその熱源があるのかどうか確かめたかったからです。ただ勢いよく燃えてすぐに燃え尽きる程度のものなのか、自分の限界を知りたかった。限界が解ればもっと効率的で確実性の高いライヴやレコーディングとか新しい展開ができるんじゃないかって考えてたんです。だからまあ実験本番のようなスケジュール感ですよね。お客さんも巻き込んでいこうと思ってます。今まで散々心配かけてきたんだもの、もう少しだけ迷惑かけても大丈夫だろうって(笑)。その道中で得たもの、見つけたものが出てきたらそれを全力でファンの方々にお返しするっていう関係で僕らは生きていこうと思います。
────まさに信頼ですよね。結果的に11月9日がYUKIさんの真のベストコンディションなのかっていうと、かなりハードな状況にも関わらずあのライヴを成し遂げたわけじゃないですか。ここからの展開もますます期待してしまうんですけど、その前に今年のトピックとしては“YUKI-Starring Raphael-”名義も始動しました。MUCCのYUKKEさんと親交の深い(?)輸血子さんがプロデュースするライヴで「Raphaelを歌ってほしい」って打診されたんですよね。
YUKI:そうです。僕としてはその一発だけのつもりだったんですけど、8月にはBugLugから<バグサミ2024>に呼んでもらえて、9月にはMUCCの<Luv Together>と繋がってきたんです。率直にやってよかったなあと思います。だって華月とさよならしてから四半世紀経ってるわけですよね。そんな昔の楽曲と歌唱とかパフォーマンスを見た瞬間に涙まで浮かべてくれるファンの方々が今この時代にもいる。こんな世界線もあったんだって知れたのがすごく良かった。ファンでいてくださる方々にも喜んでもらえたのが何よりなんですけど、そこからステージから同じ方向を向いてるミュージシャンの方との出会いとかご縁もすごく多くなったのも嬉しいですよね。

▲4月にはYUKI-Starring Raphael-を始動、大きな反響を呼んだ。
────Raphaelのフォロワーとの時を超えた巡り合いもありました。それこそ共演機会が増えているMAMA.やBugLugもそうですよね。
YUKI:それが信じられなくて嬉しかった。4月の<KHIMAIRA>でRaphaelを冠にしてライヴが決まった時に、“絶対白塗りにしよう”って決めたんです。と言うのも、よくあるパターンで“なんか歌ってくださいよ~、いや恥ずかしいよ~”みたいな茶番の中で照れくさそうに扱ってはいけないと思ったんです。メンバーも一人は他界、一人は引退して、もう一人はサポート主体の活動スタンスになった。今だからこそ自分が全力で行かないといけないって感じました。
────同時にRaphaelを冠にする責任を感じる部分がありますか?
YUKI:うん。決して世間に媚びたいわけでも安売りしたいわけでもないですから。だから<KHIMAIRA>以降はYUKI-Starring Raphael-はほとんど動かしてないです。ただ、<バグサミ2024>に出たのはいくつか理由があって。まず一つはここ数年低浮上だったから、フェスっていう遠いと思ってた場所に呼んでもらえて嬉しかったこと。もう一つはすごい身内ローカルな話なんですけど、BugLugのツアーにうちの弟が楽器チームで帯同してるんですよ。
────え?そうなんですか?
YUKI:実は(笑)。ツアーでBugLugのメンバーと一緒に機材車で移動してると、ほぼ毎回Raphaelが流れてきてたそうで。ツアーの打ち上げの時にメンバーさんたちに「Raphael好きなんですか?」って尋ねたらすごい熱弁してくれたらしく「バグサミ出てくれないかな~。櫻井さんは同じ名字なんだし、ワンチャンどっかで交流とかないんですか?」みたいにあくまで冗談で言われたみたいで。それで弟が「実は…僕の実の兄なんですけど」って話をしたそうで(笑)。BugLugのメンバーとは面識がなかったので、ご飯の席を設けて僕が挨拶行ったら、本当に人柄が素晴らしいメンバーさんだったんです。お役に立てるかどうか分からないけど、僕で良ければ参加したいと思いました。
────結果的に一樹さんと優さんはYUKI-Starring Raphael-でギターを弾くことになりましたもんね。
YUKI:それも嬉しかった。そしてその直後くらいにYUKKEくんから<Luv Together>のお誘いがきたんです。もともとこのコンセプトでライヴをするきっかけをくれた恩人だし、光栄なことにMUCCメンバーの総意だと聞いたのでそこはスケジュールをこじ開けてでも絶対出ようと。
────YUKIさんの中でも今年、Raphaelの歌を歌い継いでいこうと覚悟が生まれましたか?
YUKI:Raphaelの曲だけに限らず覚悟は生まれましたね。もともと喉を患う前は滅多にRaphaelの曲を歌わなかったし…歌うのにもすごく勇気がいるというか、心が削がれてしんどかったんですよ。いつ歌ってもアイツが死んじゃった日のことがバーっとフラッシュバックしますし。でもよく考えたら自分もいつ死ぬか分からないんだったら、今少しでも歌えるようになってるうちに歌えるだけ歌ってこうって思うようになったんです。だからこそ場所も機会も選びたいし、一緒に共演してくれるミュージシャンたちも含めていい加減なことはしたくないんです。
────確かに先日のEDGEワンマンを目の当たりにするとaRaise、rice、Raphaelっていう線引きよりも、そこに歌と素晴らしい楽曲があるっていう軸で陸続きに繋がっている事実の方が重要にも思えたんですよね。
YUKI:Raphaelの楽曲に対してriceでアンサーソングがあって、そこから続いて今のソロに至っている歌詞もありますからね、実際。全てを同じ時系列の中に置いていきたいなと思うんですよね。