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【vistlip】2年9カ月ぶりのフルアルバム『THESEUS』が持つ航海のパラドックスを智(Vo)とTohya(Dr)が13000字で超徹底解説!

vistlipにとって2年9カ月ぶりとなるフルアルバムが完成した。
1月8日に世に放たれる一作はギリシャ神話の“テセウスの船”になぞらえて『THESEUS』と名付けられた。
船を構成するパーツが全て入れ替わっても、果たしてそれは同じものと言えるのか?
最新のvistlipがメンバーの個性を研ぎ澄ませ、自由度高くも、自らに問いを投げかける。
そんな現在のマインドをヴォーカリスト智とドラマーTohyaに徹底解剖してもらった。

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胸を張って“僕たちはvistlipだ”と言えるのか


────今回1月8日におよそ2年9カ月ぶりにリリースされるフルアルバム『THESEUS』について智さんとTohyaさんにお話しを伺っていきたいのですが、そもそもこのアルバムの構想っていつぐらいからあったんですか?

Tohya:リリース自体はだいぶ前から決まったんですけど、既存の楽曲の新録をどれぐらい使うのかも含め協議を重ねていきましたね、曲が全部決まったのは昨年の10月になってから。『THESEUS』っていうタイトルが決まったのもそれぐらいだよね?

智:そうだね。

Tohya:徐々に全貌が見えてきてから一番最後にSEを作っていった流れですね。

────オープニングのSE「Port Dorothy」ですね。作品自体の物語性と一種のループ感を嗅ぐわす作りです。

Tohya:どんなSEにしようかメンバーからもイメージをもらって膨らませていきました。

────智さんはSEに関しては具体的にどんなオーダーをしました?

智:いつも綺麗なSEもらうんですけど、今回はあえて最終的にそれが壊れてしまう雰囲気。今回のアルバムは、希望を抱いた主人公がいて出港するんですけど、帰って来る頃には世界のいろいろな物を見てしまってその希望がボロボロになってしまうイメージをオーダーしましたね。

────言ってしまうとオープニングSEとエンドSEはその対比が描かれているんですよね。

智:でも、一握りの希望は持って帰ってくる。そういうイメージを伝えたところ、世界観にピッタリのものが上がってきたので、一切何も修正してないんですよ。

────すでに“出港”というキーワードが出ますが、今作『THESEUS』はギリシャ神話に由来するパラドックス“テセウスの船”がモチーフになっています。情景が浮かぶ楽曲が散りばめれているのが印象的ですよね。

智:vistlip的にはそれが大前提なので、そう感じていただけるなら今回も良い作品になったんじゃないかなと思います。

────今回“テセウスの船”を題材にしようと思った動機を教えてください。

智:シンプルに会場限定で出した「B.N.S.」から派生させようと思ったんですよ。「B.N.S.」は“嘘と矛盾”がテーマだったんですけど、そのテーマを広げていけるモチーフを探していった中でメンバーに一番ハマったのが“テセウスの船”でした。僕的には『THESEUS』ってタイトルだけど、そもそもバラバラにいろいろな世界を描きたかったから一枚の共通テーマとして名づけられればなんでもよかったんですけど。

────さっき“主人公”とも仰ってましたが、どんな像なのでしょうか?

智:“世界を見てる人たち”っていうイメージ。出港して旅をすると、世界が広がっていくじゃないですか?いろんな街にも行くだろうし、いろいろなものを見てくる。そこで出会った光景をバラバラに散りばめて作品の中で描いてます。それで最後は「B.N.S.」あたりの世界に帰ってくる。

────と言うことは、ひとりの人間の話じゃなくて、船に乗ってるさまざまな人たちのイメージって方が正しいですか?

智:そっちの方が近いですね。世界を広く描きたかったんです。

────“嘘と矛盾”に着想が及んだのって具体的な理由はありますか?

智:日頃から“死”に関するメッセージをいただくんですよ。個人的には希望を歌ってきてるし、“生きろよ?”ってメッセージを放ってきたバンドマンだと思ってたんですけどね。もちろん寄り添う気持ちを持ちながら、相手の気持ちをわかりたいっていう思いで音楽やってきてるんですけど、どうしても救えない…救いきれない人たちがいる。もちろんたくさんのファンだったり仲間を亡くしてきているからこそ、もっと“死”に対するメッセージに深く向き合いたいんですけど、俺に寄り掛かってくれるのにどうして救えないんだろうって苦しくなってしまう。だから“死”に関するメッセージをいただくけど、それって本当は生きたい気持ちの裏返しなんじゃないか?って自分の中で角度を変えて捉えることにしたんですよ。“嘘と矛盾”って言う刺々しく聞こえるかも知れないけど、本音を言えば“お前、本当はまだ生きたいんだよな?”ってソフトに問いかけてるんだって受け取ってほしいです。“生きたいんだったらもうちょい生きてみない?”って優しさが伝わってほしい気持ちもある。いろいろな出来事を踏まえてこのテーマに関してすごく考えるようになっていきましたね。

────“死”っていうのは必ずしも肉体的・物質的でなく概念的な“死”も含まれるんですかね。たとえお店が閉店するとか、好きなメニューがなくなるとか、バンドが解散するとか。

智:それも含めた考え方でも構わないかな。特に最後に出た“バンド”で言うと、心が壊れちゃったときに頼ってもらえる存在だと思うから。テセウスっていうものはパラドックスなんです。近年バンドを取り巻く環境も新しくなったんですけど、どんな環境でもvistlipはvistlipでいられるのか?胸を張って“僕たちはvistlipだ”と言えるのかどうかそういう自分たちの可能性に賭けたタイトルでもあるんです。

────そういうことなんですね。“テセウスの船”自体は船を構成するパーツが全部入れ替わって、外的には同じものでも、果たしてそれが本当に同じものなのか?みたいな問いかけもあるんですよね。つぎ足しで使われている秘伝のタレとか、ゼロから建て直した歴史的建造物がわかりやすい例ではあります。取り巻く環境や演奏する楽曲というパーツが入れ替わっても、vistlipに不変性があるのか自問自答しているんですね。

智:だからこそ、いつもは上がってきた楽曲に良い・悪いのジャッジをするんですけど、今回はメンバーが今出したいものを優先して選んでいきました。一番最初のデモでは全然意欲が湧かない曲とかもあるにはあった(笑)。だけど、こいつは今これをやりたいんだよな…だったらもっと良くなるって考えて。その想いに賭けて限界までアレンジしてきてもらいました。

▲智(Vo)


────Tohyaさんはそういう智さんの変化みたいなものは横で感じてましたか?

Tohya:変わったというよりは新しいなと思いました。いつも智に楽曲を選んでもらって、バンドとしてもそれが絶対的に正しいと思ってやってきた中で、今回作り手であるこっち側に投げかけてきたのは新鮮でしたね。普段とは色が違うし、それぞれのメンバーの個性を強く感じられるようになったんじゃないかって思います。

────智さんにマインドの変化が訪れた理由ってなんでしょう?

智:あ、宅急便来たんで取りにいってきます。

────ちょうど良いタイミングで智さんが席を外されましたが(笑)。

Tohya:そうですね…今回デモの数が多かったんですよ。それなら作曲者の意志を大切にしてみようって方向に傾いたんじゃないかな。僕以外のメンバーもそうですけど、それぞれ自分の曲を大事にしていこうっていうモードになった。『THESEUS』が出来上がってみて、結果的にこういうチョイスの仕方は面白いやり方だなと思いました。自分のデモを可能な限り磨き続ける作業ですよね。まぁ智さんは多くは語らないと思うんですけど、メンバーに対してもそういうテンションになってほしいって願いがあったんじゃないかなと。

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