【キズ】ライヴレポート<キズ単独公演「焔」>2025年1月6日(月)日本武道館◆キズ、自身初の日本武道館で刻み込んだ万感の生き様。────「お前らのなかで俺らは生き続けてやる」
2025年1月6日、日本武道館。
キズ単独公演「焔」。これまでの集大成でありながら刷新性を持った新曲「R/E/D/」も鮮烈なインパクトを残した。
弛まぬ信念と新たなる次元への突入。特別な夜を経て尚、未来を渇望する。
来夢は「またすぐここやるよ」と語りかけた。
VISUAL ROCKの明日を賭けた万感のライヴは、キズというバンドの根源を示すものだった。
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2821日。
彼らがステージで産声という名の咆哮を上げた時から刻んできた日々だ。
この国には古より、想いや情念の込もった神具や物質を“浄火”する文化がある。所説あるが、「お焚き上げ」と呼ばれるこの儀式は年明けからほどなくして行われることが主と言われている。
2025年1月6日、キズ単独公演「焔」。
「焔」という言葉が差し示すのは単なる炎でなく、怒りや恨みの情念渦巻く烈火のことだ。
2017年始動の彼らにとって、この年明けに行われた自身初となる日本武道館単独公演が特別なものであることは大前提であるが、それがプリミティヴな祝祭ではないことも事実だ。
彼らが鼓動を打ち出した日から、この世界ではどれだけの悲劇が生まれてきただろうか?その数えきれない傷を数えるように痛みと向き合ってきた彼ら4人と、その思想と概念に共鳴する者たちが一堂に介する日本武道館は壮観だった。
開演時間を20分ほど過ぎ、場内の緊張感がいっぱいまで高まるとようやく暗転。
嬌声を遮るように逆光のなかスモークに包まれたステージにメンバーが姿を現すと、シンフォニックなSEに導かれるように「ストロベリー・ブルー」へ。
紫がかったレーザーと荒廃した街の映像が絡み合い一気にダウナーな世界へと誘われる。来夢(Vo&Gt)の囁くようなラップが印象的だが、思えば2021年のコロナ禍にリリースされたこの楽曲は彼らにとっても分岐点になった1曲でもある。アグレッシヴネス以上に妖艶なムードは死と向き合う世界すら甘美にまどろむ。実にオープニングに相応しい1曲だ。続いたのは轟音が襲った「傷痕」。背景のヴィジョンに映し出される4人の表情も堂々たるものだったが、ファストな楽曲に風速を上げて応えるオーディエンスの迫力も凄まじく、ここが特別な場所であることを忘れさせるような勢いで迫りくる。
楽器隊が音を重ね始めるのを合図に雪崩込んだ「人間失格」ではラウドに留まらないシンフォニックさや鍵盤の音色で焦燥感を掻き立てていく。言葉で多くを語らずにあくまで楽曲に注力してメッセージを届けるスタイルはこの日終始一貫されていたが、近年の楽曲になるほどに増していくドープなアングラ感は特筆すべきもので、受け取るオーディエンス側にも集中力を要するものだ。
「聞こえてるか?俺の声が!」と問いかけ続いたのは「蛙-Kawazu-」。“僕のせいなんだ”と繰り返されるサビが四面楚歌を詰め込んだように鬱屈とさせる詩世界のハードナンバーだ。弦楽器隊が花道へ繰り出し大きな会場を謳歌すると、抜群のキメとお馴染みのコール&レスポンスが武道館に心地よく響く。
「よく来たな」
そう呟いて早くも披露されたのは叙情的な名曲「銃声」。迸るリズムと対照的にアコギを持った来夢の歌声が会場に微熱を浸透させた。イナズマのような照明とリリックムービーの対比も違和を与え、流れゆく日々に知らずのうちに蔓延る不条理を投げかけられている錯覚に陥る。その場で全てが消滅しそうなほどに絞りきるダイナミックなパフォーマンス、ハードなアグレッション、センセーショナルなヴィジュアル…キズを象徴する要素は多岐に渡るが、日本語詞で描かれた痛みもこのバンドを形成するものだ。無論、日本語詞に限ったことではないが、来夢の詩世界は心のかさぶたをめくるように緻密に肉感的・精神的、双方の痛みを想起させる。この日本に生を受けた者にとっては一層リアリティを持つものだ。それは蓋をした心の底に眠る時限爆弾のようでもあり、気がつかないフリをしている傍で着実に侵されていく世界そのものとも言える。「歌え!もっと!もっとだよ!」と執拗に求める来夢と、ニュアンスに忠実なフレージングで魅せるユエ(Ba)、情感溢れるドラミングで牽引するきょうのすけ(Dr)、そして穏やかなアルペジオでフックを作るreiki(Gt)の四重奏は芳醇なほどに残酷な世界の余韻を残した。
「死ぬ気でこい!さぁいくぞ!首をおいていけ!」
怒声のような号令を合図に火柱が上がったのは「地獄」。壮絶な熱狂は“共に創り上げる”といった生易しいものではなく、各々の存在証明によって成り立つ類のもので、それはステージだけでなく集結したオーディエンスも同様だ。ここでもまた荒れた都市の映像を背にした4人の迫力は圧巻で「ロックになんかのるんじゃねえぞ!俺の生き様にのれ!」の咆哮に負けじと食らいつく熱気が会場全体を取り囲んでいく。曲の終盤、ヴィジョンに映る日の丸に揺らめいた炎はクライマックスの様相を呈した。
濃密なライヴは起伏を描きながら進み、中盤へ突入。息づくような歌唱が冴えわたる「鬼」では死を天秤にかけた生への渇望が現在のキズが有するスケール感とオリジナリティを浮き彫りにする。昨年6月に国立代々木競技場第二体育館で開催された単独公演「星を踠く天邪鬼」では、クロージングソングとして披露され、その最後の節で日本武道館公演を発表した演出が記憶に新しい。ドラマティックな場面展開の中でアングルを生むユエのテクニカルなスラップでも会場を沸かせると、ドラム台に仁王立ちしたきょうのすけのシルエットが目を惹いた「平成」へと続く。“待ってました!“とばかりに武道館にヘドバンの海が広がると、暴れ狂いながらその光景を見つけているreikiの目つきは完全にキマっている。
「お前らの存在を俺に見せてくれ!」
「俺らと一緒に生きてくれ!」
互いに確かめ合うようなステージのスリリングさはキズのスタンダードだが、この武道館という特別な場所でも変わらぬバンドアティチュードを貫いていること自体、キズが特別なバンドであることの証だ。初武道館というお祭り感を介在させずに、あくまで己のやるべきことに注力するストイックなステージにこれだけのオーディエンスが集結している事実が、彼らが何たるかを雄弁に語っていると言えるだろう。続く「My Bitch」では淡々としたプレイが際立つことでむしろ熱を帯び、組曲のように劇的に表情を変えていく「0」では再び会場を大きく揺らせてみせた。
本編終盤に入るとついに「リトルガールは病んでいる。」を披露。この日初めて花道に歩を進めた来夢は「まだやれんだろ?てめえら聴こえてんだろ?しばくぞてめえら!」と暴君っぷりを露わに。その容赦ない攻撃性は武道館でも変わることなく、獣のような獰猛さを纏ったメンバーも直情的にアジテートし攻め立てる。
ラストは彼らの始まりの1曲でもある「おしまい」。当時のMV映像を背景に大バーストで本編を締めくくった。
まさにベスト・オブ・キズと呼ぶに相応しく各曲が独立しながら、全体を通しても大きなうねりとなって展開していく様にこのバンドの懐の深さを感じさせる説得力は圧巻だったが、アンコールでありがちな砕けた空気にならないのも彼ららしさである。
アンコール1曲目に披露されたのはまさかの新曲だった。
「R/E/D/」と題された楽曲は“夢鳥”、“斬鉄剣”と表記こそ微妙に異なるが、彼らがリスペクトしてやまないバンドに纏わる“夢烏”、“斬鉄拳”を想起させる示唆的なワードが組み込まれていることが衝撃的だ。もっと言えば背面に映し出されたリリックビデオには明らかにDIR EN GREYのCDジャケットとMUCCの梵字とgirugameshのバンドロゴが挿入されていた。これらのアプローチがリスペクト故であることは疑う余地もないが、このトリッキーさには舌を巻いた。だが、その衝撃だけでなくHIP HOP色をかつてないほどに強めたプログレッシヴな楽曲も驚きだ。そして“宇宙とセックスして死にたい”というキーリリックに加え、“紅”、“あの丘を越えていけ”等、読みほどき次第で解釈の幅が広がる含みにも注目すべき点がある。常々VISUAL ROCKへの敬愛を表してきた来夢の純度の高い思念を感じずにはいられない。このハードさとスピード感を刷新する最新楽曲「R/E/D/」が今後のキズにとってどのような立ち位置になるのも実に興味深い点だ。
そして優しくも切ない「鳩」、前のめりなロックンロールが燃料を投下する「豚」に続いて披露されたのは荘厳さと繊細さを持つパワーバラード。何でもこの日が40日ぶりの雨天だとのことだが、そんな天候をも味方につけるような「雨男」だ。
エモーショナルなのに冷徹で、整然としているのに激情が押し寄せるキズらしい楽曲では、舞台に向けられたレーザーが来夢の左胸を射抜くシーンもあった。
残響が鳴りやむとステージを後にするメンバーを呼ぶ声が会場中に充満した。
ダブルアンコールは2曲。
「とことん付き合ってやるよ。まだ燃やせんのか?」と小気味良いシャッフルで揺らした「ミルク」。そしてラストはやはり「黒い雨」だった。
「今日言いたいことはたったひとつなんですけれど、本当にいろいろな人がいて…いろいろな人生があると思いますけれど……明日もしっかりと生きて俺らの歌を聴いてください。どうもありがとう。…それだけだ!!生きて俺の歌を聴け!!明日も!明後日も!!その次も!!生きて、俺の歌を聴け!!!」
この日唯一と言っていいほどに残した言葉が昇華されるように、宙を舞った金テープが浄化する魂の救済を施した。
優しいバラードは愛する者たちへの決意と慈愛に命を差し出す。
痛みと絶望に対峙しながら生きることを唱えてきた彼らが最後に提示したものは、命に代えがたいものと、命をも辞さないかけがえのないものだった。
暗闇の中に一筋の光を置くメンバーの顔つきは精錬で、ささやかな愛を育んだ。
ヴィジョンに映し出されたラストナンバーを演奏する彼らの表情は嗚咽混じりのようにも見受けられたし、溢れる素直な感情を受け止め紡ぐライヴはどこまでも“人間”であった。
圧倒的なカリスマ性を誇り、他の追随を許さない稀代のオリジネイターでありながら、日本武道館においても自身のスタイルを崩さずに1人1人と向き合うライヴをやってのけたキズ。それも陳腐な言葉ではなくその姿勢で。
華飾に溺れず、全身全霊を賭して放つ生き様は無二のVISUAL ROCKで、その根源は彼らと共にあった。
万感の表情でメンバーがステージを後にした最後、残った来夢は「またすぐやるよここ。じゃあな!」と手短に告げた。
思えば彼はこの日“武道館”という言葉を一度も吐かなかった。
特別な場所で特別なステージをする、それもいつも通りに。
この相反する離れ業をこの日のキズはやってのけてしまった。だからこそ、彼らがこれから歩む道がどこへ続いていくのか気になって仕方がない。
初武道館という冠が不要に思えるほど、彼らは己のステージを全精力で見事全うした。
これがキズ、これぞキズ。
21時前、会場を出ると雨脚が強まっていた。まるで彼らが紡ぐVISUAL ROCKの明るい未来を盛大に祝すように。
文:山内 秀一
撮影:岩佐 篤樹
SET LIST
<キズ 単独公演 「焔」>
2024年1月6日(月)@東京・日本武道館 SETLIST
01.ストロベリー・ブルー
02.傷痕
03.人間失格
04.蛙-Kawazu-
05.銃声
06.地獄
07.鬼
08.平成
09.My Bitch
10.0
11.リトルガールは病んでいる。
12.おしまい
EN.1 R/E/D
EN.2 鳩
EN.3 豚
EN.4 雨男
WEN.1 ミルク
WEN.2 黒い雨
LIVE
■キズ×DEZERT 「This Is The “VISUAL”」
2025年3月1日(土) 日比谷野外大音楽堂
[開場 /開演] 16:00 / 17:00
[チケット料金]
指定席¥8,000
キズ ブログマガジン会員/DEZERTオフィシャルファンクラブ「ひまわり会」先行
※TicketTown
受付期間:1/6(月)21:00~1/13(月)23:59
入金期間:1/16(木)12:00~1/20(月)23:59
販売ページURL:https://e.tickettown.site/tickets/kizu_dezert_this_is_the_visual =
キズ 単独公演「雨男」
2025年3月2日(日) 日比谷野外大音楽堂
[開場 /開演] 16:30 / 17:30
[チケット料金]
VIP席(前方エリア/VIP限定グッズ/先行物販優先レーン)¥15,000
通常指定席¥6,000
【ブログマガジン会員先行】※TicketTown
受付期間:1/6(月)21:00~1/13(月)23:59
入金期間:1/16(木)12:00~1/20(月)23:59
販売ページURL:https://e.tickettown.site/tickets/kizu_ameotoko
RELEASE
2025年4月9日(水) RELEASE
「R/E/D/」
※詳細後日発表
関連リンク
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