【唯(umbrella)】ソロワークス4th MiNi ALBUM【唯言】リリース。ソロだからこそ込めた赤裸々で等身大の自分。「引っ張っていくカリスマじゃなくて、一人の人間としてリスナーに寄り添うアーティストがいてもいいんじゃないかな」

自分がいつか死んだときに綺麗に残せるものにしたい
────その“花”っていうことで言うと今作『【唯言】』にも共通するテーマとなっていますね。
唯:これは3曲目の「鈍色」の公開レコーディング中に“黄色い花”って言葉が出たのがきっかけですね。そのあとで1曲目の「ソクラテス」でも“百合の花”って歌詞が生まれたのでそれが糸口になって全曲に花を散りばめてみようと思ったんです。こういう風に読み解いていくギミックって楽しいじゃないですか?
────唯さんのアルバムではお馴染みですが、歌詞カードには各曲に小説も添えられていて、その小説と歌詞も絶妙にリンクして世界が立体的に表現されてますしね。
唯:その辺りは小説家さんに僕のイメージを伝えはするんですけど、歌詞とリンクしていたり想像を掻き立てられるようになってます。サブスク全盛の時代に敢えてCDを販売する意味って、言葉を読む楽しみでもあると思うので、このあたりは是非手に取って感じてほしいところです。
────強く同感ですね。7曲でこれだけ掻き立てるものもなかなかないと思うんですけど、まず1曲目は「ソクラテス」。古代ギリシャの哲学者として知られています。
唯:曲としては僕の音楽の中心になっているオルタナですね。16分のリズムで重ためな雰囲気のものを1曲目にするのも決めてました。タイトルもまさに哲学者の「ソクラテス」なので“無知を知る”がテーマです。この曲のイメージは会社なんですよ。僕自身も社会人経験があるので、なんか知ったような口きいてるけど、実は全然何もわかってないやろ!と言いたくなるような人物像を思い描いて作っていきました。人間ってあんまり自分の非を認めたがらないでしょ?他者だけじゃなく自分も含めて、そういう本質にある人間のちっぽけさですよね。
────まさに無知を知れと。
唯:重ためな楽曲でどんよりとして、一旦打ち砕かれてからアルバムをスタートさせたかったんです。アルバムの最初を気持ち良いものにしたくないんですよ。僕の気難しさを音でも伝えたくて(笑)。
────切ないメロディと同時に終盤のギターソロは迸るようにアルバムのスタートを告げる雄弁さもあります。しかし次で一転しますね。
唯:「Hello.Lonely World」は実はumbrellaの3年目くらいからあった曲なんです。隙間のある良い曲だし、umbrellaの2nd Mini Album『モノクローム』に入る予定だったんですよ。でも当時は完成に至らなくて。自分の価値観的に結構意味合いが重たかったって言うのと、当時のumbrellaは詩世界が抽象的だったからこの曲がハマらなかったんです。ワンコーラスまではできてたんですけど、それっきりだったのを今回12年越しに引っ張り出しました。
────なるほど。それもあって今作の中ではかなり異色に感じたんですよ。ポップセンスが炸裂しながら疾走する展開然り。でも、歌詞は楽曲の雰囲気とは一致しないですよね?
唯:今回のアルバムが『【唯言】』ってことでまぁ言っちゃえば“遺言”じゃないですか。コンセプト的にも自分がいつか死んだときに綺麗に残せるものにしたいと思っていて。自分の根幹の部分を書いてます。
────当時書いていたのはワンコーラスの部分までってことですよね?今回も形はそのままですか?
唯:うん、変えてないです。
────“待ち続けたら背中に風が吹くはずと信じてたんだ”というフレーズが際立っていますね。
唯:これは当時のバンド活動や自分を取り巻く環境ですね。自分のセンスを疑ってなかったし、いつか売れるだろうってプライドもあったのに現実はそうでもなくて。
────いや、これが当時の歌詞なことが意外なんですよ。てっきり今の上昇気流に乗っているumbrellaの視点かと思ってました。
唯:結果的にそう捉えてもらえるような状況になりつつあるのは嬉しいけど、違いますね。やっぱり僕は音楽歴がそれなりに長いので、それまでの苦節の歌詞です。でも、1サビ以降の歌詞はここ数年で成長した自分の言葉を詰めてあげようと思いました。結果的に時を超えた歌詞が融合したことが「Hello.Lonely World」にとって良い方向に作用したなと感じてます。あんまりこういう言い方は普段しないんだけど、これは今作のリード曲ですね。
────この爽やかな曲に乗る歌詞とは思えないものの、最後に少し前を向く感じが足されたわけですね。
唯:少しだけだけど(笑)。自分も別に長生きできるタイプじゃないのが解ってるから“きっと僕の命は短い”って書いてます。でも、こういう個人的なことはumbrellaじゃ書かないですよね。「Hello.Lonely World」はやっぱりソロで出すべき曲だったんだと今は思います。
────3曲目は「鈍色」。これめちゃくちゃ良い曲ですね。
唯:それすごい意外な感想。こういうの好きなんや(笑)。
────最近のumbrellaでもハマるんじゃないかなっていう曲調でサビの抜けが良いですよね。それでいてちゃんとどんよりしてるし(笑)。
唯:ようわかってますね(笑)。おっしゃる通りで、これも最初はumbrellaの曲にする予定でした。一昨年に「solitude」を出すときに天秤にかけてたのが「鈍色」。パワーバラードを作ろうってなった時に生まれたんですけど、結局「solitude」が選ばれたのでそのときは世に出なかったんです。ある意味「solitude」と対になってる曲なんですよ。
────「鈍色」が選ばれなかった理由は?
唯:umbrellaは1曲ずつシングルとして出していくスタイルだから、そうなった時によりシングルに相応しいのが「solitude」だっただけ。フルアルバムに収録する曲とかだったら「鈍色」だったと思います。でも、世に出なかったんでそりゃあ喜んでソロで引き取りますよ、と(笑)。
────確かにそういう役割の曲かもしれないですね。サビが抜けてくるのに抜けきらないところも聴き手を唸らせるし、世界観の中で活きる曲というイメージです。
唯:そう。抜けきらないっていうのもまさに肝で。バンドとソロでは音域を変えてるんですよ。バンドだと高音も張ってるんですけど、ソロだとこの「鈍色」も力感は抜いてるし、全体的にファルセットが多い。あとはウィスパー。今ちょうど技術的にも勉強してるんです。
────このシューゲっぽさは唯さんが得意とするところじゃないですか?
唯:そうですね、「鈍色」は「solitude」よりもシューゲ感は強いですね。umbrellaだと柊くんがギターソロを弾くことでちょっとまた違う要素もあるんだけど、ソロでは徹底的にシューゲにしようと。あとはカッティングとかも僕が弾いてるイメージがみんなあるんじゃないかな。
────「鈍色」の歌詞カードの小説も、あるカップルの終焉の描写なんですけど、これでもかと胸を締め付けてきます。切ないなんて言葉じゃ片付かないくらい。
唯:これもね。なかなかきますよね。
【唯言】視聴動画 -メイン編-
────しかし歌詞ではこの曲調にも関わらず“黄色い花”が出てくるんですね。
唯:これがさっき言った公開レコーディングで出てきたやつですね。全く色がない曲に色を入れたんです。“黄色い花”って要はひまわりのことなんですけど、歌詞にするとイメージがだいぶ変わっちゃうからあえて伏せて“黄色い花”にしてます。あえて世界観を濁らしてる。過去は楽しかったけど今はどんよりしてるよね?ってこの曲だけやたら救いがないんですよ。書いてるうちに段々そうなっていきましたね。まさに大雨って曲。
────意図したわけではなく?
唯:自然と。あまりカチっと決めてつくることがないんで歌詞の後半はそれまでの流れでできていくんです。
────フックになっている後半のサビ終わりのギターも印象的ですが…あれなんて言うんですかね?
唯:テロテロしてるやつですよね?うーん、テロテロしてるやつとしか言いようがない(笑)。あれも曲も展開の中で何か入れたいなと思って弾きました。あれ地味にめっちゃムズいです(笑)。
────唯さんはメンタルの浮き沈み多いタイプですか?
唯:結構多いと思いますよ。落ち込んだらご飯も食べへんしって感じ。メンタルが曲に作用することもある。umbrellaだと「五月雨」とかそうじゃないですか?あれってLOKI時代に絶望して“もうダメだ!”ってなった時に降ってきた雨に打たれたときのことなんです。あの時に、自分の心に傘を差してくれる人いいひんかなぁって思ってできた曲。余談ですけど「五月雨」はumbrellaのテーマ曲だと思います。
────バンドとソロ双方暗い曲が多いので唯さんのメンタルが心配になりますよ。
唯:でも、メンタルが落ちてる時にポップな曲ができたりもするからなんともですね。少なくとも狙って明るい曲を書けないのかなって思ってます。
────「鈍色」に話を戻すと、大雨の曲なのに小説では雪と表現されてるんですよね。
唯:そこはね、小説家さんもさすがだなと思います。雨と雪は違うけど、僕のイメージを見事に汲み取ってくれたなと。
────あの雪の描写をあえて雨に修正しないことで、唯さんと小説家さんの双方の世界が成り立っていて良いんですよね。ライヴでも化けそうですね「鈍色」。
唯:ですね。ライヴではもっとめちゃくちゃシューゲしてると思う。