【夜光蟲】ライヴレポート<2nd ONEMAN LIVE 「路地裏より愛を込めて 下」>2025.05.24(sat)池袋EDGE

夜光蟲とは―――ビジュアル・音楽・映像・文学など、あらゆる手法を用いて生み出した作品を蜘蛛の糸のように張り巡らせ、それらを自由に選択し組み合わせていくことで多角的に理解・考察して楽しむことができる総合芸術である。
“電脳秘密倶楽部”をコンセプトに活動している彼らが、存在を鮮烈に刻んだ1st ONEMANから約3ヶ月。
2025年5月24日、夜光蟲は再びその姿を現した。
今回“路地裏”の舞台に選ばれたのは、八雲 (Voice)とTaizo (Guitar)にとってホーム的存在と言えるライヴハウス・池袋EDGE。タイトルは、1st ONEMANと対になる形の「路地裏より愛を込めて 下」。
ひとつの作品の完成形ともいえる公演を見届けるべく駆け付けたオーディエンスの期待と高揚感が、開演前のフロアを埋め尽くしていた。
場内が暗転。スクリーンには、主人公の記憶が断片的なシーンとなって次々と投影されていく。
羽ばたき出す蟲達の羽。「路地裏より愛を込めて」とタイトルが映し出され、物語のはじまりを告げる。
疾走感のあるデジタルサウンドに照明がフラッシュする中、路地裏同盟(support Dr.)のJohannesとTaizoが順に姿を見せると大きな歓声が迎え入れる。
最後に登場した八雲は、お立ち台の上で覚悟を決めたようにじっと正面を見据えて動かない。アシンメトリーにカットされた前髪から覗く瞳。鬼気迫る姿からは、ただならぬ気迫が感じられた。
ほんの一瞬の静寂。
青く燃えさかる炎のような、ゾクリとするほど艶やかな八雲のロートーンボイスがそれを破り、『無自覚を刻め』で会場全体を路地裏の世界へと誘う。
シャッフルの跳ねたリズムと歌謡要素強めなTaizoのエレアコに合わせ、手拍子を打ち鳴らし揺れるフロア。
“狂ってるのは、お前らの方さ”―――無自覚に曝され、為す術無き世界で自分らしくあるために死を選ぶしかなかった人々へのレクイエムでライヴは幕を開けた。

「『路地裏より愛を込めて』。皆さん、楽しむ準備はできてますか?今日は皆さんと一緒にヤバい空間を作っていきたいと思います。全員まとめて、かかってきてください。」すぐさま大きなレスポンスが返され、『生まれ落ちたが運の尽き』の迫りくるようなイントロが脳内を浸食する。
「踊れ。」凄みのこもったその言葉に逆らうことなどできない。左右にモッシュが起こると、Taizoがステージの端から端まで動いてその波をさらに大きくしていく。
“生まれ落ちたが運の尽き 足掻いたって無駄なのです”―――世捨て人のごとく淡々と歌う八雲、どこか不安を駆り立てるようなサウンド、物語は次々に展開を見せる。

Johannesのカウントから、『蛾々』へ。先ほどの『生まれ落ちたが運の尽き』同様、夜光蟲の楽曲のイントロはどれも秀逸で、今回のようなコンセプチュアルな側面を持った公演で聴くと劇半的な役割も感じられて非常に興味深かった。
“心の奥で叫ぶ 気泡の光 消える前に”―――そう歌った八雲は、光を繋ぎとめるように強く握りしめた拳を突き出す。スパニッシュ歌謡とでも呼ぶべきか、Taizoが奏でるアルペジオが、哀しくも妖艶な彩を与えていた。


「夜光蟲です。2月17日に始動ライヴを開催してから、約3ヶ月。お待たせしました、お久しぶりです。」あたたかな拍手の中、静かに語り出す。
「3ヶ月という時間は、生活が変わってしまうには充分すぎるほどの時間で。あの日から1本のライヴもせずに過ごすことに全く不安が無かったわけではないけれど、自分達が作ってきたものと皆さんを信じて、今日という日に待ち合わせすることを選びました。集まってくれて本当にありがとうございます。ここに集まってくれたみんなと僕達で、最高の時間にしていきましょう。よろしくお願いします。」
確かに、始動ライヴから3ヶ月間ステージに立たないことは異例とも感じるが、夜光蟲は常に慎重に入念に活動の下準備を繰り返してきた印象が強い。
それはきっと、ヴィジュアルシーンでは珍しい2人編成であること(※メンバー自身は『夜光蟲はユニットという意識ではなく、あくまでもバンドだと思っている。』と話していることを改めてお伝えしておきたい)、“歌謡メロディー×アコースティック×EDMを多用したバンドサウンドの融合”という新たな要素が強い音楽性であることなど、オーディエンスにとってあまり馴染みが無い可能性のある表現のオリジナリティーを、いかに純度の高い状態で届けるかを熟慮しているからだと感じる。
そして、2人がひとつひとつ丁寧に積み重ねてきたからこそ夜光蟲の魅力が多くの人々に伝播していったのだということが、この日のフロアに集結した沢山のオーディエンスが証明していた。

「世界中でただ1人、僕だけが君を幸せにできると勘違いをさせてくれないか?」
再び物語へと惹きこむ短い語りから、哀愁漂う歌謡メロディーに身を委ねる『漆黒横丁』。ゆくあてなく彷徨う彼を照らす夕暮れみたいなオレンジの光は、やがて突き刺す赤へと一変した。
“居場所がないから僕は ナイフ握るしかなかった”―――自身の鼓動を確認するように、胸にマイクを当てる八雲。ギターパーカッションを交えつつ終始ドラマティックに奏でていたTaizoが事切れたようにその音色を途絶えさせると、息の詰まる余韻に思わず呼吸を忘れそうになる。