1. HOME
  2. NEWS
  3. 【夜光蟲】ライヴレポート<2nd ONEMAN LIVE 「路地裏より愛を込めて 下」>2025.05.24(sat)池袋EDGE

【夜光蟲】ライヴレポート<2nd ONEMAN LIVE 「路地裏より愛を込めて 下」>2025.05.24(sat)池袋EDGE

ライヴ前、TaizoがXに「前回は“視覚”がテーマでしたが、今回は“LIVE感”が軸になっていて動きが大事になってくるから予習を。」と書き記していたが、オーディエンスはその想いに応えるべく、サブスクリプションやYouTubeで夜光蟲の音楽をしっかりと身体に叩き込んできたのだろう。キャッチーなサビと意外性のある曲展開が魅力のこの楽曲では、手拍子・折り畳み・ジャンプといったフロアのアクションの一体感に特に驚かされた。
“切り裂いて 曝け出して この刃で終わりを告げる”―――放物で描いた【赫】に染まったその手を振り上げすべて終わらせるような仕草を見せた、八雲の姿が胸に焼き付いた。

「新曲を持ってきました!池袋EDGE、声を出せますか?」大歓声のフロアからはあっという間に「オイ!オイ!」とコールが沸き起こり、拳が突き上がる。どこまでも呑み込みが早いオーディエンスが素晴らしい。
セットリストに記された仮タイトルは、『狂い時計(仮)』。キャッチーなサビメロに、流れるようなギターソロ・・・しかし、垣間聴こえた歌詞に描かれていているのは、かなりグロテスクで狂気的な愛情の行く末のよう。どのような完成形になるのか楽しみだ。


「あまり無いと思うんだ、2回目のライヴで新曲をやるって。」演奏を終えた八雲が話し出す。
「でも、2月のライヴをしたことで『こういう曲があったら、もっと一体感が作れるよね。』と感じたから、Taizoと話し合って作りました。まだ完成とは言い難い状態の楽曲だけど、今日集まってくれた人に新しい曲を聴いてほしかったし、ライヴを重ねる中で曲が変化しながら完成していく部分も楽しんでもらえたらバンドマン冥利に尽きるなと。タイトルも正式には決まっていないですが、これからの夜光蟲の新しい武器として愛してもらえたら嬉しいです。」
そして、「早いもので、もう残り数曲となりました。我々自身も前のバンドのワンマンでは20曲以上演奏するのが当たり前だったので、曲数としては物足りなく見えるかもしれない。でも、こうして集まってもらった以上、物足りないなんて感じさせて帰すのは嫌なので。最後までついてきてください!」と、用意されていたのは『セイディーメイニー』。

「さぁ、頭のご準備を。」レトロなSEが一瞬にして轟音に掻き消され、激しいシャウトが放たれれば、一面に広がるヘドバンの海。
現在発表されている楽曲の中では異端的なラウドサウンドと彼らの真骨頂である歌謡メロディーの融合に、場内のボルテージが急上昇していくのを感じる。
“夜神楽の舞いは生き恥の命日”―――何度も繰り返されるフレーズに合わせてオーディエンスからコーラスのレスポンスが響けば、八雲とTaizoも思わずステージ際まで身を乗り出す。
アウトロではまたTaizoとJohannesが重厚な演奏で空気を震わせ、八雲が咆哮を上げて、その音楽のポテンシャルの高さと幅広さを叩きつけて見せた。

「声を聞かせろ。」勢いそのままに夜光蟲流の“ヴィジュアル系暴れ曲”『混蟲LESSTRANCE』へと突入すれば、一度聴いたら忘れられない中毒性のある「たべたーい!」のコーラスが響く。
事前に公開されたMVはその過激さと衝撃度ゆえに規制がかけられるのではと物議を醸したが、ドラッギーで精神を崩壊させていくような楽曲のパワーはライヴでこそ遺憾なく発揮される。
Rapパートでフロアが手バン一色になったかと思えば、「暴れられるか、東京!」の煽りから今度は逆ダイが巻き起こる。ステージを縦横無尽に駆け回るTaizo、お立ち台の上から1人1人を確認するように覗き込んだ八雲が「足らねえよ!全員でかかって来い!」とさらなる燃料を投下すれば、後方のオーディエンスも前へと駆け出し突っ込んでいく。
逆ダイとコール&レスポンスの応酬は時間と共に激しさを増し、最後はフロア一面のヘドバンで燃え尽きるようにして締め括られた。

熱を鎮めるように、降り注ぐ雨音。やがて、それは世界全体を覆い尽くし、視覚も聴覚も青に染まっていく。
物語の終わりを描くのは、『遺恨』。誰もが微動すらできず、その結末を見つめていた。
“たまにどうしようもなく死にたくなる 息を継ぐ 生きるための さながら呪縛のよう”―――独白のように綴られ重ねられてゆく言葉は、美しいメロディーに反して痛みと哀しみに溢れている。しかし、その言葉を発している彼はきっともうその痛みすら感じていないのだろう。
感情を失くすことでしか呼吸を続けることができなかった彼の魂を、慈しみ解放する柔らかなギターの音色がそっと包み込む。
最後の最後、ほんの一瞬だけ震えたその声に、彼の中に僅かに残った人間らしさを見た気がした。
歌い終えてセンターに立った八雲は、胸に手を当てゆっくりと一礼してステージを去った。
TaizoとJohannesが奏でるアウトロが澄んだ水底のような余韻を残す中、暗幕がゆっくりと閉じていく。
「路地裏より愛を込めて」。選択の余地すらなかった環境の中で心の悲鳴は搔き消され、誰かを救うことも誰かに救われることもできず、「  」でしか安らぎを得られなかった青年の哀しく残酷な物語は、この世界の片隅で静かに幕を下ろした。

始動時から、音楽・歌詞・映像・文学がリンクした形で制作を行ってきた夜光蟲。これまでに発表された歌詞の大半は、八雲が執筆した小説「路地裏より愛を込めて」(※この日の物販より販売開始)のプロットを基に制作されてきた。
その集大成とも言える今回のワンマンは、ひとつの文学作品を映画化や舞台化とするのと同様に“ライヴ化”した公演だったと思う。ライヴハウスでのみ体験できるライヴ感に溢れた“動”の部分を全力で楽しめたと同時に、演劇や映画を鑑賞した時と同様の満足感も味わえた夜だった。

だからと言って、これからライヴに足を運んでみようと考えている人達が身構える必要はない。夜光蟲の表現は多角的に構成されているが、そのどれを選択しても楽しむことができるのだから。まずはライヴに足を運んで、その日・その空間でしかできない体験をするも良し。YouTubeで、唯一無二の世界観を放つ映像作品を鑑賞するも良し。サブスクリプションで、演奏や歌声の細かな部分まで聴き込むも良し。そして、繊細な情景描写が見事な小説を読んで、それぞれの楽曲の背景にある感情や出来事の輪郭をよりはっきりと感じ取るも良し。もちろん、その全てを合わせて夜光蟲の描く世界にどっぷりと没入するも良し(やはり筆者個人はこれをおすすめしたい)。
それぞれの環境で、それぞれの楽しみ方で、夜光蟲に触れてみて欲しい。

7月からは、いよいよライヴイベントへの出演も解禁される。
ワンマンとは異なる対バン形式の環境下でどんなステージを展開してくれるのか、今から期待しておこう。
そして、ひとつの作品を描き切った彼らは次にどんな物語を紡ぐのか。
夜光蟲は、次章へと続いていく。

文:富岡 美都(Squeeze Spirits)

関連リンク

subscription
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=943242

YouTube
https://youtube.com/@yakou-chuu?si=UCGJRRKujVcNPMlC

X
https://twitter.com/yakou_koushiki

八雲
https://twitter.com/yakou_koushiki

taizo
https://twitter.com/belle_haro

関連キーワードでチェック

この記事をSNSでシェアする