【fuzzy knot】ライヴレポート<fuzzy knot Tour 2025 〜Beyond The Emergence〜>2025年6月12日(木)東京・Spotify O-WEST◆Shinji(Gt/シド)と田澤孝介(Vo/Waive、Rayflower)から成るロックユニットfuzzy knot。2ndアルバムを携えたツアーファイナルでファンと共有した“幸せな瞬間”

6月12日、東京・Spotify O-WESTにて、シドのギタリストShinjiと、Waive/Rayflower等で活躍するヴォーカリスト田澤孝介のロックユニットfuzzy knotが、2ndフルアルバム『fuzzy knot ㈼』を携えたツアー<fuzzy knot Tour 2025 〜Beyond The Emergence〜>を完走した。
レパートリーを更に広げる多彩な新曲群がセットリストに加わり、組み合わされた既存曲の聴こえ方も大きく変化。
ストーリーを紡ぐのに必要なパーツが出揃い、fuzzy knotというバンドの全体像がいよいよハッキリと見えてきた、後に節目として振り返ることになりそうなツアーだった。
SE「The Emergence Circuit」に乗せ、サポートメンバーの与野裕史(Dr)、工藤嶺(Ba)に続いて登場したShinjiと田澤。
「渋谷! ツアーファイナル楽しんでいきましょう!」(田澤)とイントロに乗せてシャウトして、爽やかな中にも切なさを潜ませたポップチューン、新曲「パステル」でライブはスタート。
晴れやかな笑顔で田澤は歌い、Shinjiも心地良さそうにまるで歌うようにギターを奏でている。
続く「ブルースカイ」も明るく晴れやかでありながら、全員が一音一音に魂を込めて鳴らしていることが伝わってきた。
観客は拳を高く突き上げて大きな声を出し、受け身ではなく共にライブをつくり上げていく。


「ついにツアーファイナルを迎えました」と田澤が語り、何本目であろうとその日のライブは一本しかない、という気持ちではあるものの「寂しくも思ったり」と名残惜しそう。
それは良いツアーを回ってきた何よりの証だろう。清々しいサビが痛快な新曲「TAILWIND」までは爽やかなムードで楽しませたが、「遠隔Reviver」からは一変。
煽情的な赤いライトの下で闇属性のロックンロールを鳴らし、2人の眼差しは別人のように鋭くなる。
獰猛なシャウトで田澤が煽り「Hello, Mr. Lazy」に突入すると、曲の世界にどっぷりと入り込み狂気すら感じさせる歌、演奏を繰り広げていく。
華やかな掻き回しの末に音を止めると歓声と拍手が沸き立つ。ステージとフロアの熱が混ざり合い、目には見えないが肌でひしひしと感じる、大きなエネルギーの渦を生んでいた。

「身体を動かすワイワイとした楽しさだけじゃなくて、作品の持つ方向に心が動けば、身体を動かそうが動かすまいが、皆さんの気持ちを動かせればと思うので。受け止めていただけたら田澤は喜びます」という言葉に続き、ディープなゾーンへとファンをいざなっていく。
1stアルバム『fuzzy knot』1曲目の「深き追憶の残火」と、『fuzzy knot ㈼』収録の新曲「月下美人」を続けて披露したことで、実は繋がっていた両曲の世界の全体像を描き出してみせたのだ。
<赤い月>というモチーフが繋ぐ別々の世界の、それぞれの主人公が憑依したかのように、全く異なる声色で歌い遂げた田澤の表現は圧巻。
田澤が放つエネルギーをShinjiはキャッチして、ギターを通して観客に音として届ける、そんな無限の交歓がライブハウス内で繰り広げられていた。
息を呑む観客が静まり返る中、ドラムカウントから「Imperfect」が始まった流れには意表を突かれたが、絶妙な置きどころだった。
それだけでは不完全な創作物が、受け手が存在すること、その想像力の作用によって初めて<I’m perfect>(完全体)になる。
そんな歌詞解釈を具現化するかのような、3曲を一繋がりとした印象深い流れ。ライブ全体に奥行きを与える上で欠かせない、魅惑的なゾーンだった。
余韻たっぷりの静寂を経て、始まったMCは笑い満載だったのもまた良いバランス。「いやぁ、幸せだよ」と満足そうにこぼしたShinjiは、「若い時は言えなかった」と過去を振り返りつつ、素直さ全開で「簡単に言えます、愛してます(笑)」とファンにサラッと告白。
「軽い(笑)!」と田澤にツッコまれていた。一つ前の公演で、会場名の新横浜NEW SIDE BEACH!!が漢字の直訳であることから、
田澤が「rice field swamp」と呼ばれたくだりを引き継いだトークで大盛り上がり。
田澤孝介をフルネームで訳してきた、と誇らし気なShinjiだったが“考”介だと勘違いしており、「think」などと書いた直筆の訳文カンペを用意。
田澤は自身が孝介と命名された由来を明かし、加えて、実はシンイチが第一候補だったと語るとShinjiは「シンイチのほうが良かったんじゃない? そうしたらnew onlyじゃないですか? 私new nextですから」とコメント(Shinjiのシンの漢字は“新”ではないそうだが……)。
着地点を決めずに話題が切り替わっていく2人の掛け合いはとにかく自由で、場内は笑いが絶えなかった。

「お手を拝借!」と田澤が呼び掛けてタンバリンを手にし、ミディアムナンバー「Sunny Days」が始まると、曲に没頭するというよりは笑顔でリラックスした雰囲気のもと音楽を届けていく。
新曲「ノスタルジック・ラプソディ」は頭上でワイパーしながらやはり楽し気にパフォーマンス。
Shinjiがセンターのお立ち台でスポットライトを浴びながらグラマラスなギターソロを奏でると、アルバムリリース前からライブでお披露目されていた骨太なロックンロールナンバー「Backseat Driver」へと雪崩れ込んだ。
バンドの阿吽の呼吸、タメの効いた間が生む粘り気たっぷりの重厚なグルーヴに惹き付けられていると、強打し続ける与野のパワフルなドラミングに乗せ、田澤がこれでもかと強烈に煽りながら「Set The Fire !」へ。
ジャンプしたり、立ち位置を入れ替わったりと2人はダイナミックに動き、ラストスパートに向かっていく。
工藤のアグレッシヴで色気のあるベースソロから新曲「Freestyle Lover」が始まると、田澤もShinjiも髪を振り乱し上半身を直角に近いほど折り曲げて荒々しくパフォーマンス。
続いて「Joker & Joker」「ダイナマイトドリーム」「#109」と、新曲が増えてもやはり外せない定番曲たちを畳み掛けていく。
終盤にも関わらず減衰するどころか増幅していくエネルギーをステージで溢れさせ、音楽に身を捧げている熱い姿に圧倒された。
激しい掻き回しの末に音が止まった後、田澤がマイクを通さずに叫んだ「ありがとう!」という声が清々しく響いた。
「楽しませなあかん立場にいながら“楽しいな”と思えた時は、幸せな瞬間です。ライブに来ている理由も意味も、来ている人の数だけあって。
きっと、上手く言葉にできないそれをお互いに感じている時が、紛れもなく幸せな瞬間だと信じています。
その瞬間が今日たくさんあったはず。消えていくから。残らへんから。これはライブに限らず、“幸せだった”というあの時の気持ちは残るけど、幸せそのものは消えていくからさ。
だから次が欲しくなるし、もっと幸せになりたいって思うわけです。それでいいし、そういうものだと思います。ここにあったら終わる気がするんですよ」と、無いものを掴もうとするかのように、胸の前に左手を出し虚空を掴む田澤。
ニューアルバムの歌詞を書く時に時間が掛かったとも語り、それは「何かを伝えたいというより、自分が何かを言っておきたい、この言葉を残しておきたい、と思ったから」だと説明。
「いくら正しいことを言ったって、それが誰かを救うということになるとは限らないんですよ。音楽ってそういうものだし、それでいい。
何て言ってるか分からなくても“この曲を聴くとすごい元気になる”、元来それでいいと思う」とコメント。
「皆が受け取って、その先いろんな方向に、皆が思う方向に気持ちが動けばそれで十分。理由とか欲しいものとか、それぞれ違うかもしらんけど、必ず一つ、この空間を共有したら“幸せやったな”というこの感覚はお互い持って帰れるでしょう。
ライブをやっている間、それ以外のfuzzy knotの曲を聴いてる時、聴いてはいないけど考えている時、その時間さえも僕らは同じ時間を共にしているんだ、と思っています。
こうやって向かい合うことを目指して、いろんなことを乗り越えられる。それは僕らも一緒で、この場所があるから頑張ろうと思うし…」とライブという場所の尊さを語る。
「今日帰ったら現実が待っておる。夢のような時間って感覚はあるけど、ここも現実やん? ここに皆の何かを解決する力はないけど、皆が何かを乗り越えようとする力は与えてくれると思うから。
これからもお互いがそういう関係でずっといられたらいいと思うばかりでございます。今日は本当にありがとうございました!」とコメント。本編最後に「シャ・ラ・ラ」を披露した。
ミラーボールが輝くその下で、<正しいだけの言葉じゃ 救い出せないものがある>というフレーズを包容力に溢れた歌声で響かせ、Shinjiがハモを重ねるコーラスも実に力強い。
最後のサビでは明るい光の中、「一緒に歌おう」と田澤が呼び掛け、メンバーもファンも♪ラララの大合唱。<行こう 新しい場所へと>という未来を思わせる言葉が際立って耳に、心に残った。