【umbrella】ライヴレポート<umbrella presnts「路地裏サーチライト」>2025年6月23日大阪BIG CAT◆umbrella渾身の主催にメリー、メトロノーム、heidi.、色々な十字架が集結!

今年3月で結成15周年を迎えたumbrella。
彼らにとって一大イベントとなる「路地裏サーチライト」が6月23日に、地元・大阪BIG CATで開催された。
彼らのリスペクトする音楽にフォーカスしつつ、かつてのシーンに一石を投じるように出演バンドへ対する手厚い配慮も忘れない同イベントは、久々の開催となった昨年10月の味園ユニバース公演から8カ月ぶりとなる。
名実共にこの1年でのumbrellaの急上昇は目を見張るものがあるが、そのきっかけとなった「路地裏サーチライト」も過去最大キャパシティとなった。
メリー、メトロノーム、heidi.、色々な十字架と彼らが“路地裏”の匂いを嗅ぎ取った珠玉のラインナップによる名演の模様を本レポートでお届けする。
やっぱり今のumbrellaはすごかった。
◆ ◆ ◆
色々な十字架
大舞台のトップバッターを務めたのは色々な十字架。
この夜の最若手バンドにとってこの出演順は妥当とも言えるが、一方で初っ端から予測不可能なキャスティングでもある。
コミカルな詩世界で所謂“バズる”体験もしている彼らはヴィジュアル系外のファンも多く獲得している一方で、先輩バンドに囲まれる対バン、それも大阪という環境は到底ホームとは言い難いからこそどのようなステージで抗うのかが見物だ。
SEに招かれ幕が開くと、BIG CATのステージ背面のビジョンにはアレンジが施されたバンドロゴが浮き上がる。
「路地裏サーチライトいけんのかよ!色々な十字架だよ~」と陽気に煽ると「凍らしたヨーグルト」からスタート。
各パートがよりその個性を増長させた作りになっていて、粘り気もありながら伸びやかでしなやかな印象も与える。
純度の高いクリーントーンはやはり時代感90年代に一気に遡行させる効果が抜群だ。
ビジョンには通例通り歌詞が映し出され、「それはさておいて 舟盗みました」と平然と映し出される。いや、舟を盗むな。そして、さておくな。






そんな気持ちとモゾモゾとした快楽を助長させる彼らのステージは時間の経過と共に会場後方までも巻き込んでいった。
tink(Vo)もいつになく強烈なシャウトをキメる。
楽器を弾かないことがお馴染みミュージカル調の「GTO」で様子見だった層の拳があがっていった様は壮観だったが、PAスタッフをも腹を抱えて爆笑させていたのは流石としか言いようがない。
楽曲の切なさで歌詞のコミカル性を凌駕してしまう「LOST CHILD」、高速ピッキングで圧倒する屈指の大暴れナンバー「かなり耽美(決定)」まであっという間に駆け抜け、彼ら流のumbrellaへのリスペクトを以って見事に会場を温めてみせた。

heidi.
2番手はheidi.だ。
途中からダンサブルに切り替わるSEが宴を助長し高揚感を上げてくれる。
序曲は「レム」だった。言わずとしれたheidi.の代表曲は早くも会場を軽快に揺らしていく。
梅雨の真っただ中に開催された本イベント当日は生憎…いや、umbrella主催ということを考えればむしろ“お誂え向き”の雨模様だったのだが、湿気を纏った空間にカラッと乾いたheidi.のサウンドが炸裂していくのも実に趣きがある。

義彦(Vo)が「今日も暑いねぇ!俺たちと夏しよう!」と切り込んだ「夏一途」ではキャッチーな和のメロディで誰しもの心に眠る青い時代をなぞるようタイトに疾走する。
楽器隊が織りなすプレイはストーリーテリングするように映像的で、緻密なフレーズ、音色のいずれもつぶさな煌めきが散りばめられていてその一切を聴き漏らすことなどできない。

MCでは義彦がumbrellaとまた2マンツアーをしたい旨を述べると拍手喝采となった。
そんな空気のなか贈られた最新楽曲「徒花」では、同期がむしろ4人の骨太さとバンドとしての逞しさを強調し、マニアックなのにポップでキャッチーを体現するheidi.のわびさびを届けてくれる。
カッティングから雪崩れ込んだノイジーな「Fallin’」も絶品で、そのリズムと身体を造作もなく一体化させていく。
グラデーションしていく音像で琴線に寄り添い、その中心には芳醇な歌唱を携えた絶対的なヴォーカリストが君臨する。
その説得力は抜きんでていて、ダイナミックであることが決してダイナミズムではないことを脈々と浸透させきった。




実のところheidi.は全国ツアーの最中で、umbrellaからのオファーに対して過密スケジュールを調整して出演を決定させた経緯がある。
昨冬には2マンツアーを共に廻ったumbrellaへの漢気を感じさせるが、それはラストナンバー「おまえさん」でも顕著だった。
曲のブレイクでumbrella・唯を呼び込むと落ちサビの一節だけ歌唱を委ねたのだ。この日、唯が他のバンドのステージに登場した唯一のシーンであることからも両者の関係性が伺いしれる。
和のテイストを香らせ郷愁性を誘うheidi.はイベントに鮮烈な残り香を授け、爽快にステージを去った。

メトロノーム
3番手として登場したのはメトロノームだ。
SEからして直接脳を揺らすようなローの強さで、これから始まる独壇場への期待と緊張感が会場中から高まる。
お馴染み黄色のツナギに身を包んだメンバーが登場するやいなや地響きのような大歓声が巻き起こり、シャラク(VOICECODER)の「お邪魔しまーす!」の一声でそのテンションはピークに達する。
すると1曲目はいきなり「世界はみんな僕の敵」。メトロノームの登場を心待ちにしていたオーディエンスがメンバーのアクションとシンクロする振付を見せたかと思えば、サビでは会場は大揺れ。

独特のヴォーカリゼイションだけでなく、キョンシージャンプを披露するなど五感に訴求するパフォーマンスで訴求するシャラク。
そんなシャラクの「はぁ~あ」というため息からタイトなリフで切り裂く「箱庭空間」へ。近年の楽曲においても、そのピコピコサウンドや転調を駆使した電光石火のような畳みかけは唯一無二だ。

「今日は呼んでいただきとても嬉しいです。ありがとうございまーす!精一杯…老●を尽くして帰りたいと思います!」と愛のあるシニカルなMCでも爆笑拍手喝采を巻き起こすと、曲コールに巻き起こった歓声をもかき消すように間髪置かず「アクアリウム」へ。
フクスケ(TALBO-1)のつんざくようなギターソロ、サビ裏で躍動するリウ(TALBO-2)のフレージング、シャラクのラップ調のパートとその魅力は枚挙にいとまがない。


結果的にこの日のセットリストは新旧が満遍なく交わるものとなったのだが、学生時代にメトロノームのライヴへ通っていたというumbrella・春の想いに応える部分もあったのだろうと推察される。そんな粋な計らいがありつつも、ライヴは一切手加減なしで手緩い空気は介在しない。
フクスケが操るテルミンがフックになる「不機嫌なアンドロイド」、ノスタルジックさとメトロノームのサウンドのハイブリッドが痛快な「血空」しかり、怒涛のバンド力はたゆまず会場の熱気を上昇させていく。仕舞いには関係者エリアからも拳が上がる有り様である。
ラストはバンド再起動後最初のシングル「解離性同一人物」だった。
テルミンソロ、キーボードソロを交えた展開に機械的でありながら力強いシャラクの歌声が掛け合わさる光景は不可侵の領域と評するに相応しい。
演奏が終わったあとも会場には大きな余韻が残った。

メリー
イベントもいよいよ終盤戦。
トリ前に登場するのはメリーだ。
メリーは昨年10月に味園ユニバースで開催された同イベントにも出演。umbrellaからの熱烈なラブコールに応える形で連続出演となった。
こういった複数のバンドが交わる対バン形式のメリーは何をやってのけるかわからないスリリングさも魅力であるが、当然この日も例外ではなかった。
これから始まるステージに固唾を飲んで見守る観衆に届けられたのは、閉じたままの幕の奥から放たれたガラの歌声と鍵盤、ギターのアルペジオというシンプルかつ一気に心を掴む演出だった。
瞬時に空間を握ると、リズムインと共にゆっくりが幕が開けていく。
最新アルバム『The Last Scene』の中でもひと際耳を惹くバラードナンバー「スターチス」からスタート。
umbrellaメンバーが再びメリーに出演オファーをした理由として挙げていた名盤の収録曲から始まる構成もニクいところだが、ネロ(Dr)の鼓動のように強烈なバスドラも楽曲をドラマティックに彩っていく。激情を押し込めたテツ(Ba)ベースプレイも決壊寸前まで情念を込めるようで、この静かな幕開けがここから始まるメリーのパフォーマンスを予見させるように鳴り響いた。
結生(Gt)のかき鳴らすコードが一気に空気を変えて披露されたのは「梟」。
気高いメロディと前傾で滑空するようなメリー特有のグルーヴに、会場に集まったオーディエンスもこれでもかと熱量を高め拳をあげて応えてみせる。
そのドレッシーな装いが不釣り合いなほどに感情過多にバーストしていくステージはメリーの真骨頂であり、強靭なバンドの自我の体現だ。




「路地裏サーチライトへようこそ!umbrellaっていう大切な後輩の一世一代のイベントです!わかってるよな?大阪!狂っちまおうぜ!!」
ガラ(Vo)の叫びに続いたのは直情的なエナジーをもって非日常が日常であることを地でいく「GAGA」。
暴動のなかにエレガントさも有し、途中テンションが上がったテツが結生を指差すと、今度は結生がテツを差し返すハートフルなシーンも生まれた。
会場を大きく揺らした「Zombie Paradise~地獄の舞踏曲~」、そして「ジャパニーズモダニスト」にいたる頃にはガラは衣装のほとんどを脱ぎ捨て、クライマックスへ加速していく。


「このイベントは続いていくと思います。どんな形になろうと俺らは出続けるし、umbrellaがずっとこのイベントを引っ張ってどんどんバンド界を盛り上げると俺は信じてます。」
イベントに強靭な意志を与えたラストは「「来来世世」」。
剛も柔もエレガンスもエログロも30分に込めた渾身のステージは再び巡り合う日へ想いを馳せ、トリを務める“後輩”へ愛情を繋げた。
umbrella
トリはイベントの首謀者、ついにumbrellaの登場だ。
真っ青な照明は深海のように会場全体を仄暗く染める。水音が響くSE「アマヤドリ」と共にメンバーが現れると目を細めたくなる眩い逆光がハレーションしていき、やがてその光を遮断するように唯(Vo&Gt)がステージに歩を進めた。
唯がつま弾くフレーズと流麗でドライな歌唱がこの日最も深部に潜ったのは「solitude」。
柊(Gt)のソロは相変わらず雄弁詩な世界の語り部として情熱的だし、細胞に語りかけるようにダイナミックな大振りかつ味わい深い春(Ba)のベース、一聴しただけで彼のもとわかる鳴りをする個性を持つ将のドラム、ギターも操る唯も含めた4人の音は立体的に交差し、それぞれに確かめ合うように繊細に響く。
穏やかでか細いのだが、そこに芯があり逞しいのがumbrellaのロックだ。
テクニカルな側面をも凌駕するほどに情熱が迸ったのは続いた「orbit」も同様だ。




umbrellaは昨年10月に味園ユニバースで久々となる「路地裏サーチライト」を開催、今年3月には同会場で念願の有観客ワンマンライヴを成功させた。
結成15周年にあたり、腹を括り覚悟を決めたことは明らかだが、このキャリアにおいて今ここでギアを踏み込むことは実のところなかなか難しかったりもする。
以前MCで唯が発言していた言葉を借りるなら“身の程は解っている”からだ。
自身の身の程を理解すればするほど殻を破ることは難しくなる。何故なら生じるリスクも解っているからだ。
楽な道を選びがちなのが人間で、それ自体を否定する道理はないのだが、umbrellaはここへ来て高みを目指す道を選んだ。
だが、ここ1年のハイライトになる公演をこれまで目撃してきた筆者にとって実のところこの夜のumabrellaのステージにはどこか違和感が拭えなかった。
その違和感の正体を思案していると、挑発的に叫ぶ唯の咆哮から「dilemma」へ突入。これまでも要所で起爆装置として機能してきたメロウかつアグレッシヴなナンバーだ。
「大阪いけんのか!!」と執拗に煽り倒す唯と春にグイグイとフロアの熱気が上がっていくのは、この夜の主催者への賛辞以上のカタルシスを共有できているからではないだろうか。
“答えはいらない
捨て去れ期待
さあ全て白紙の未来へ“
世界をシャットダウンするような歌詞は、ともすれば世捨て人のようでもあるが、今のumbrellaがプレイすることでむしろ答えを提示するプロダクトになっていることが実に興味深い。世に溢れた造語で言うなれば“エモい”のだ。それもめちゃくちゃに。

umbrellaは“歌モノのバラードだけのバンドじゃない”とメンバー自身が発信してきたことも身を結んだと言えるが、その内的なベクトルは確実にBIG CATに伝染している。
色々な十字架、heidi.、メトロノーム、メリーが想いを刻んだ路地裏サーチライトという生き物を制するように「化け物観てきただろ!?すごいだろ!群れを成していこうか!いけんのか大阪!」とブチまけたのは「「群」」。
ノイジーなサウンドにワイルドなリズムと伸びやか唯の歌声が浮遊するのがなんともumbrellaらしいのだが、一挙一動で観衆を束ね上げる唯のパフォーマンスはカリスマティックでもあり、バンドがここにきて著しい成長を遂げていることは明らかだ。
卓越した技術とハイクオリティなオルタナソングは予ねてより高い評価を得ていたが、今のumbrellaはより人間が泥臭く香る。抜群の歌唱力を誇る唯はウィスパーを駆使したかと思えば、途端にがなるように刺々しい表情も見せる。将のかき回しひとつをとっても楽曲の湿度に寄り添っていることが印象的だ。
もっと言えば、それぞれに異なる照射のアプローチとなった赤・青・緑のライティングの配置も絶妙で、バンドとしての表現がもう一段深いフェーズへと進化していることが伝わる。
「俺たちには忘れていた曲があった」と告げたのは「黒猫が通る。」。
ここBIG CATに相応しい超攻撃的なレアナンバーで攻めたてると、フロアを一気に扇動する必殺曲「Witch?」へと連なる。
ステージから迫り出す春の傍らで、人差し指を掲げて跳べ!と煽る柊の姿もあった。会場が大揺れになったことは言うまでもない。
「振り乱せ大阪!」という唯のアジテーションにヘッドバンギングの海が会場中に広がった瞬間、この夜の違和感の正体に気がついた。
自信である。
今のumbrellaのステージにはこのうえない自信が溢れている。
昨年の路地裏サーチライト、3月のワンマンはいずれも挑戦的な部分もあるにはあった。もちろん自信がなかったわけではないが、自ら切り開いた道の先でそれは確信に変わったのだろう。
その都度、強い覚悟で成功へと自らを導いてきたバンドにとってこの日のライヴはもはや挑戦ではなかったのだ。成功して当然、そのもっと上の景色を、そんな上昇志向から来る自信に満ち溢れたライヴには淀みのない説得力があった。
これまで奇跡を期待されていたumbrellaのステージは、とっくにその次元を超え絶品の現実を提示することが主たる目的になっていた。
そして外へ届けるためへの意識がしっかりと根付き、モデルチェンジされていることも見逃せないポイントだ。
「すごい景色だ。ありがとう。」素直に語った唯が「どうよこの景色!umbrellaさんよ?」とメンバーに振ると、いの一番に春が「最高ですみなさん!最高です!(柊を指差し)キミも最高だぜ!」と叫ぶ。それを受けた柊がいつものクールな調子で「ありがとうございます。」と告げると「もっとよろこべよ~!なぁ?(笑)」と彼ららしく笑いを取る場面も微笑ましかった。

「15年を迎えたumbrella、初めてこんなところで主催をしたんですけど、すごいよ。こんなにお客さん入るようになって。みんなや出てくれたバンドさんのお陰やけど。今日のバケモンの4バンド…すごいよ。全部観たけど素晴らしい。全員が一番やったね。ありがとうございました。あと1バンド……umbrellaってバンドがいるんですけどね?矛盾しちゃうけど、今日は俺たちが一番だと思ってます!」
僕らもあなた達を照らすと意思表明して、この日の出演メンバーを呼び込んだラストは「アラン」。


仲間たちが入り乱れる夢のような光景のなか、それぞれにマイクを取り歌いあげ大団円となった。
退館時間が迫るなか、かかり続けたアンコールでは唯がZanshinの変形ギターをついに初お披露目した「アメイジング」をプレイ。
爽快に疾走するナンバーで精魂すべてを出し尽くす完全燃焼で終演。
10月11日には久々となるデジタルシングル「レヴ」をリリースすることも発表し、遅くまで残った観客を沸かせた。
umbrellaが地元で旗振りをする「路地裏サーチライト」。
メリー、メトロノーム、heidi.、色々な十字架と個性豊かなバンドが集結した。
umbrellaいわく“路地裏”とは時代に流されない音楽のとことだ。
確かに思えば、一見共通点がない出演バンドにはいずれも独創性という共通項がある。そしてそれは時代の流行りに左右されない孤高のものである。
レトロックを主軸にしながら音楽的探究を人一倍忘れないメリー、不世出のセンスで今なおオリジネイターとして君臨するメトロノーム、活動初期よりブレずに自身のスタイルを研磨するheidi.、今どきのセンスを駆使しつつもバックボーンの90年代を抽出する色々な十字架。
そして提唱する空間系オルタナをヴィジュアル系シーンで鳴らしながらネクストフェーズへ進化を遂げたumbrella。
この5バンドを大阪の地に呼び寄せたumbrellaに拍手を送ると共に、この日この場所を選んだオーディエンスにも敬意を表したい。
いずれのバンドも中心には音楽があり、言葉がある。
当たり前のようで当たり前でない意志を形にした夜を完成させるには、集結したオーディエンスの声がどうしても必要だった。
路地裏サーチライトという合言葉を目印にこのイベントは続いていくだろう。
実際のところBIG CATは心斎橋のど真ん中に位置する都会的なライヴハウスだ。
大阪のシンボル的な街で、代表するライヴハウスでこれが成し遂げられた以上、“路地裏”は場所ではなく概念と言える。
これから未来、大阪を中心に全国の“路地裏”にもサーチライトと言う名の眩い光を照らし続けてほしい。
今のumbrellaにはきっとそれができるはずだ。
Text:山内 秀一
Photo:おにてん