【ライヴレポート】「KHIMAIRA-revenge of the grief-」Spotify O-WEST。無念の強制終了から1年後のリベンジマッチ完遂。◆ CHAQLA. / MAMA. / nurié / 色々な十字架 /「#没」/ まみれたが刻んだイデオロギー。「俺たちが新世代のヴィジュアル系だ!」

VISUNAVI Japan主催ライヴ「KHIMAIRA-revenge of the grief-」が12月6日にSpotify O-WESTで開催された。
出演したのは、CHAQLA. / MAMA. / nurié / 色々な十字架 /「#没」/ まみれたの全6バンド。
お気づきかと思うが、これはおよそ1年前に同会場で開催された「KHIMAIRA-SCUM PALACE-」のリベンジマッチである。
昨年は不慮のアクシデントでトリを務めるMAMA.のステージが中断し、ヴォーカル命依は血塗れのまま救急車で搬送される事態となった。
新世代ヴィジュアル系の未来への楔となるべき1日をやり切れなかった悔しさはMAMA.以外の5バンドにも通ずるもので、皆が再び相まみえることを願った結果、同じ会場で同じ出演バンドで、同じ出演順という再会が叶った。
しかし、異質な個性を持つ6バンドのことだ。単なる“やり直し”で済むはずがない。
時が熟したことで一層ヒリついた、未来へ託す一夜の模様をお届けする。
◆ ◆ ◆
●「#没」
「#没」はトッパーの優位性を存分に見せつけ会場を圧倒した。
ステージ上には日章旗が掲げられ、入口でゲリラ的に配布した国旗を振るオーディエンスと織りなす時間はある種異様だ。

彼らの思想を詰め込んだ「拝啓、売国奴」ではアラート音とともに「あなたの日本を教えてください!」と叫ぶ。ブレイクでは坂本九の「上を向いて歩こう」をサンプリングする徹底っぷりだ。
本イベントの趣旨でもある、1年前からの答え合わせをのっけから体現するように、「#没」はまったく別のバンドに生まれ変わっていた。いや、生まれ変わるというよりは剥きだしになっていたという方が正しいかもしれない。
「九州福岡より我々、漢気を持って参りました!」と不破(Vo)が告げて始まった「チヨコレヰト パレヱド」以降は、哀愁のある旋律が直情的な荒々しさとともに襲い来る「ワラベウタ」、マーチングドラムと「万歳!」の咆哮が響き渡る「零」と強烈なメッセージ性の楽曲が並んだ。
曲が進むにつれメンバーはリラックスした様子を見せるが、不破の愛国心を掲げた演説を導入にした「憂國」では一転して空気を変える。
國を憂いた「憂國」に関して言葉遊びの要素はないのだが、“夕刻”を思わせるノスタルジックさも日本語詞を大事にする「#没」ゆえのマジックに思わせるから不思議だ。




ここまでスタイルを研ぎ澄ませた覚悟も見事だが、昨年は誰かとの闘いを繰り広げていた彼らが、今回は己との闘いに身を投じていたことがなにより印象深かった。
それは思想であり、生き様であり、死にゆく場所を探すようでもあった。
没することは、諦めることではない。そして、生きることは振り絞ること。

ウォール・オブ・デスでぐちゃぐちゃにした「心中」のあと、最後は再び「拝啓、売国奴」を叩きつけた。「天皇陛下万歳!」と叫ぶ不破の目に迷いはない。
果てるように目的を達した彼らは極まった精神で舞台をあとにした。
●色々な十字架
色々な十字架にとって今年は濃密な1年だった。
音源のリリースこそなかったものの、2024年にリリースした『1年生や2年生の挨拶』の個性は時間をかけて世間に浸透し、ゆっくりではあるが着実にこのバンドの音楽性の深さが広まっていたように思う。いわゆる“バズり”の結果、バンドの本質が評価されるのも奇妙な話だが、それも色々な十字架らしい。
「KHIMAIRAもう1回やるぜ!」とtink(Vo)が叫んだ、「ご飯が食べられる古書堂で」で爽快にアゲていくと、dagaki(Dr)のビートが気持ちよく疾走する「蜜」へ。ツインリードも印象的だが、00年代の教科書通りとばかりに繰り返される転調も実にニクい。
misuji(Ba)のラップスキルの向上が著しいレアナンバー「汗拭きシートで冬来けり」の披露以上のサプライズとなったのは、まさかの新曲披露だ。
「夜狂人女(ヤクルトレディ)」と題された新曲は“Yジャンプ”を促す、ファストなヘヴィナンバー。狂気的アングラさも感じさせる新機軸だが、その内容についてはタイトルから想像を膨らませて楽しんでほしい。



「去年のリベンジなんですけど、そういうところで新曲をやるっていう……粋なやつをやりました!粋でしょ?」と呼びかけ、謎の“粋コール”でも沸き上がった。
大一番の際に色々な十字架は、しばしば彼ら流のサプライズを仕込む傾向がある。
同世代の盟友たちとの再会が、彼らにとって特別な時間であることがかけがえのないものだ。




ラストは名曲「Highway to Tomorrow〜ダイナミックおもらし〜」に「LOST CHILD」とメロウなバラードを2曲立て続けに披露。
かつてないほどに感情過多に声を震わせた「LOST CHILD」を歌い終わるとtinkはステージを後にし、残された楽器隊が最後の一音まで丁寧に音を重ねた。

局部を汗拭きシートで拭いたら全身がヒンヤリした曲や、派手におもらしをしても干せば乾く……どこまでもコミカルな歌詞なのに、そこはかとない感動で涙腺を刺激する姿は、彼らがこの1年闘い続けた証である。ユニークなバンドはときに時代の潮流の玩具にされる嫌いがあるが、色々な十字架はそんなものに歪められることなく、これからもトガっているバンドで在り続けていてほしい。
●nurié
この日の時点で残すライヴはあと4本。
どうしたって特別に感情になってしまうnuriéの東京ラストステージ。その詳細をレポートすることが難しいほどにメンバーの気合いと、オーディエンスの想いが交錯する1秒も無駄にできない、言葉にならないライヴだった。
その名のとおり、透明なキャンバスに様々な色を重ねて独自性と特異性を体現してきたnurié。
多彩であるからこそ、核たるものが見えにくかった時期もあるにはあった。
いろいろやる、なんでもできる、言い換えればそれは個性を覆い隠す要素でもある。廣瀬彩人(Gt)の類いまれな才能は、無二の武器であると同時に諸刃の剣だったのかも知れなかった。
“知れなかった”、今更こんなことをあえて言えるのも、ファイナルモードに入ったnuriéはありのままの自分たちに帰還し、寸分も隙のないライヴを披露し鬼神のごときテンションで自身をブチ上げていたからだ。
それはこれまでの歴史が間違っていなかったことを肯定するものだ。アッパーなナンバーで着火した序盤、ケレン味ある展開で奥行きを魅せた中盤、ストレートでどの層にもリーチできる強靭な楽曲を並べた終盤と、わずか35分に彼らの6年半が凝縮されていたと言える。
その実直な人間性ゆえに悩むことも多かっただろう大角龍太朗(Vo)、スキルフルかつパッション豊かなドラミングを見せる染谷悠太(Dr)、このバンドをその才能で豊かに彩り続けた廣瀬彩人。
そして、関東を中心にサポート務め上げた永山銀(Support Ba)はこの日が最後となるが、彼もまたnuriéを色づけた存在だ。






様々な別れや、最後へ向かう想いが溢れるラスト「透明に混ざる。」は万感だった。
初めから答えは出ていたのだと、そう思わされる。澄んだ想いを届ける「透明に混ざる。」は今になって思うと遺言のようでもある。これはきっと幸せなことだ。
翻弄された運命は最後に救いとなる。それは彼らが懸命に音楽と向き合ってきたからにほかならない。全員を見渡せる位置にポジションを取る小鳥遊やひろ(Ba)も含め、nuriéはnuriéである。そしてそれはバンドが完成に近づくということだ。
戦友と言える対バン相手に囲まれてnuriéは東京最後のステージに幕を下ろした。
●まみれた
nuriéの渾身のステージは感動的に会場を包み込んだ。
大角龍太朗は「俺たちがいなくなったら、あなたが未来に繋いでいってください」と伝えた。
繋ぐとは何か?そのメッセージを受けてか否かはさておき、この日、まみれたはとことん非情だった。1年前の本イベントシークレット出演を皮切りに活動再開の狼煙を知らしめたまみれたにとって、ここは明快な回答を提示する場でもある。
「指名手配が指名手配」から始まったステージで、伐(Vo)は終始「バカ!死ね!殺すぞ!」と荒々しく煽り倒し、観客にも徹底攻撃で容赦なく水を吹きかけ続ける。いつものまみれたと言えばそれまでだが、ここまでのセンチメンタルな空気を排除するように主義主張をぶつける様は彼らなりの誠意だ。




「最近のKHIMAIRAってみんな仲良しこよしなんですよ。」
「今日と去年、殺気が全然違うんですよ、つまんねぇ。CHAQLA.もMAMA.もnuriéも十字架も「#没」も殺しに来るから好きなんですよ。決して手を取り合いたいわけじゃない。仲良くしたいわけじゃない。殺し合いがしたいんですよ。手を取るより、命を取る方が仲良くなるんですよ、バンドマンって。」
「俺はこのKHIMAIRAを、“みんな、ありがとう!”じゃなくて“みんな死ね!”の場にしたいんだよ!」
シークレット出演時とは大きく異なって、まみれたもそのイデオロギーの中核を担う。馴れ合いを嫌い肉弾戦に持ち込むスタイルはイベント全体に一気に殺気を生み、穏やかな空気を葬り去った。
ただ暴君として君臨するだけでなく、そのサウンドのクリアさやヴォーカリゼイションの進化も特筆すべきポイントで、正直頭ひとつ抜けている。



TikTokで1億再生を記録した……という枕詞がノイズになるほど鋭利な「もしもし」、キラーチューン「お邪魔します」で会場を狂乱の渦に落とし込むと、最後の「隣の席の卑猥ちゃん」まで終始常軌を逸したテンションで彼らが標榜する“床下”の如く暴走モードで駆け抜けた。
作り込まれた狂気ではなく、失うものがないスタイルが凶器そのもののとなって予測不能を孕む。それが、まみれただと再確認するには十分すぎる時間だった。
●CHAQLA.
「KHIMAIRA」は今回でシリーズ通算15回目の開催だったが、CHAQLA.は最多出演で今回が10度目の登場となる。レギュラーバンド的な立ち位置ともいえるが、そういった慢心は彼らには生じない。
幕の向こう側から威勢のいい気合い入れの声が響くと、オーディエンスも臨戦態勢に。
昨年との特異点として4人体制になったことが挙げられるだろう。その状況を苦境にすることなく、ビルドアップしていったCHAQLA.は縦のラインの整然さに捉われない独自のグルーヴに磨きをかけ、そのフリーダムなマインドを音楽に落とし込み続けた。
その鍛錬の結果、昨年から頻繁に演奏されていた序曲「イエス」の時点で、それぞれが奏でる音色がある種のセクシーさを醸し出すものとなっていることに気がつかされる。制御不能な初期衝動が武器だったCHAQLA.は歴戦の猛者との対バンを経て、二次進化的なフェーズへ突入した。
ミクスチャーの概念を音楽だけでなく、精神的にも有するからこそ、自由な思想は他者との干渉を生まない。

「BACK TO THE FUTURE」のブレイクで、ANNIE A(Vo)がバックステージで出番を終えた直後のまみれた・伐に「おめえよぉ、逃げられねぇようにしてやったからな」と言われたことを明かしたうえで、「それはどうかな?俺らは俺らの闘いかたでこのKHIMAIRAどこよりもブチ上げてやるからかかってこいよ!」と不敵にアンサーしてみせた。
続いて「俺たちが新世代のヴィジュアル系だ!」と吼えたシーンは会場のボルテージをMAXにする。
インタールード的な「hi-lite」でチルいムードに誘ってからは「POISON」、ウォール・オブ・デスを試みる茶目っ気を見せた「ミスキャスト」とお馴染みの楽曲を立て続けに披露。




今年リリースされたNEW EP『覚命盤』のなかでもひと際アグレッシヴな「PLASMA⚡」では、サークルも生まれた。
終盤に入ると4人のメンバーは持ち前の規格外の華やかさと暑苦しさで全身全霊のエナジーで襲い掛かってくると、ANNIE Aが会場バーカウンターに雪崩込んだ「未知への旅路」まで容赦ないステージで圧倒した。


縦ノリをベースにしながらも、小気味よく身体を揺らせたり、しゃがませたり、頭を振らせたり、横ノリを使いこなしたりと、自由度とレンジの広さは相変わらず目を見張るものがある。
大きな熱狂を生むと、「ありがとう!満足したから帰るぜ!」と輝かしい未来を予見させながらCHAQLA.は颯爽と姿を消した。
●MAMA.
もっともリベンジの要素を担うMAMA.は今年もトリだ。
だが、2025年を代表する名作『CRY MORRY』をリリースしたMAMA.にとってはより一層の真価を問われる時間だったのかも知れない。
1曲目は壮大なムードが厳かな儀式の始まりをしらしめる「CRY MORRY」。
ド派手に腕をぶん回して感情を曲に乗せる命依(Vo)の姿はこの夜に賭ける想いをひしひしと感じさせる。
はっきり言ってしまえば、1年前にアクシデントは気合いと共に不規則に腕を回した命依の小指と真(Ba)の愛機のヘッドのバッティングによるものだった。
ステージは指を深くカットした命依の大粒の血痕で染まり、ライヴは中断した。
これまでの5バンドの熱演は歓迎すべきものであると同時に、昨冬の悪夢をフラッシュバックさせる。
今年こそはと、不慮の事態に配慮しながら入念なステージを見せるメンバーに対して、指なんか吹っ飛んでもいいから遠慮すんな!と言わんばかりの命依の気迫は一気に伝染し、感情の行方を厭わない暴力性を呼び戻す。
昨年は命依不在でプレイした「PINK MOON.」以降は、バンドの矢印を明確にした「WITCH??」、「ALiCE iNSOMNiA」で短絡的ラウドとは一線を画すドープな世界へ引き込んでみせた。





終盤、1年前の悪夢に対峙した鬼門の「命日」をオーディエンスとの強力なシンガロングで完遂すると、「毒入りミルクはママ.の味」でスパーク。圧倒的な扇動力を誇る1曲は会場を大きく揺らした。
MAMA.もまた本イベント出演は今回が8回目となり、象徴的な存在を担ってきたと言える。CHAQLA.と共に双璧を成すバンドとして切磋琢磨してきたが、総決算的なこの場で、陽を極めるCHAQLA.に対して、陰鬱とした暗い森を彷徨うMAMA.のステージは孤高のものであったし、両者がライバルでありながら一層、好対照な存在へとシフトしていることが伺える。まさに不可侵の領域だ。それはMAMA.も然り、CHAQLA.もまみれたもnuriéも色々な十字架も「#没」も。


ラストは「冷たい湖に沈む海月」。芳醇な歌声と重戦車のようなビートがシンフォニックに昇華されるナンバーは深淵な闇への入り口だ。
半狂乱になった命依の絶唱はこの1日、ひいては昨年から続いた物語自体が悪い夢だったのではないかと感じさせる。
メンバーは放心し、命依が過呼吸のようにステージに倒れ込むとクロージングとなるSE「水死体で見つかる」が轟く。
静かに幕が閉まると、鳴りやまない声が会場に響き続けた。
1年越しのリベンジとなった「KHIMAIRA-revenge of the grief-」。
終わりへ向かうバンドもいるが、それぞれに歩んできた答え合わせはむしろ未来を感じさせるものだったように思う。
マスに寄せた音楽は介在せず、そのアイデンティティを貫き続けることを美学としたことで手繰り寄せられる無二の時間だった。
未来は現在へとなり、過去へと変わっていく。その道中で得たものがまた次の世界を生み出す。
この夜に集結した想いの数々が時代の証明になることを期待したい。
Photo:川島彩水
Text:山内秀一
SET LIST
⚫︎「#没」
拝啓、売国奴
チヨコレヰト パレヱド
ワラベウタ
零
憂國
「■開■」
突伽-DURGA-
心中
拝啓、売国奴
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⚫︎色々な十字架
ご飯が食べられる古書堂で
蜜
汗拭きシートで冬来けり
夜狂人女(ヤクルトレディ)
Highway to Tomorrow〜ダイナミックおもらし〜
LOST CHILD
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⚫︎nurié
Firebomb
OVERKILL
RooM-6-
百鬼夜行
夏霞
冷凍室の凝固点は繋ぐ体温
流るる季節に君の面影
Borderless
透明に混ざる。
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⚫︎まみれた
指名手配が指名手配
足裏の天使
死因:無視
死魔流し
もしもし
お邪魔します
死因:暮らし
隣の席の卑猥ちゃん
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⚫︎CHAQLA.
SE.開眼
イエス
BACK TO THE FUTURE
hi-lite
POISON
ミスキャスト
PLASMA⚡
PLAY BACK!!
未知への旅路
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⚫︎MAMA.
CRY MORRY
PINK MOON.
WITCH??
ALiCE iNSOMNiA
命日
毒入りミルクはママ.の味
冷たい湖に沈む海月
SE.水死体で見つかる
関連リンク
◆CHAQLA. OFFICIAL SITE https://www.chaqla.com/
◆CHAQLA. OFFICIAL X https://x.com/CHAQLA_offi
◆MAMA. OFFICIAL SITE http://mama-visual.com/
◆MAMA. OFFICIAL X https://x.com/_MAMA_OFFICIAL
◆nurié OFFICIAL SITE https://nurie-web.jp/
◆nurié OFFICIAL X https://x.com/nurie_official/
◆色々な十字架 OFFICIAL X https://x.com/kanari_tanbi
◆「#没」 OFFICIAL SITE https://botsu.fanpla.jp/
◆「#没」 OFFICIAL X https://twitter.com/Botsu_Official
◆まみれた OFFICIAL SITE https://mamireta.ryzm.jp/
◆まみれた OFFICIAL X https://x.com/mamire_official



