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【裏切り者には制裁を 主催ライヴ「裏事情」】ライヴレポート◆2024年6月3日(月)心斎橋CLAPPER◆心斎橋CLAPPER公演で魅せたディープな典礼────。
昨夏に大阪のシーンに突如として現れた<裏切り者には制裁を>。ソロアーティストである千颯(Vo)とサポートミュージシャンによる編成、さらには退廃的でありながら独創性溢れる音楽、そのアートワークで話題を呼んだ。そんな、<裏切り者には制裁を>の主催3マン「裏事情」が6月3日心斎橋CLAPPERで開催された。
共演するのは昨年6月始動の<孔雀座>と5月始動の<201号室>。
まさに最先端の思想のもとにそれぞれの意志を確かめあった夜の模様をお届けする。
お馴染みとなったお香が充満したところで登場したトップバッターは孔雀座。
ここに至るまで前々日は名古屋、前日は同会場でワンマンライヴを立て続けに行っている彼らだけあって力感なくリラックスした面持ちが印象的だ。
“楽しむ気マンマンで来てます!”と宣言するなりここに来て一段とキレが磨かれた「DANCE IN THE DARK」からスタート。始動時に公開されたMVにもなっている1曲だが、この日は装いも当時のもので、この1年間の道のりがフラッシュバックするような錯覚にも襲われる。
この日はフロアにも多くの観衆が訪れ、その歓声の大きさもイベント全体の期待値の高さを感じさせる。感情を強引に押し付けるような力強さがこのバンドの未来を予見したくさせた「929」。5人がバラバラにそれぞれの使命を全うするステージワークが華々しさを誇る一方で、フロントメンバーがせり出してくるバンドとしての圧力も増している。フロントマン未羅がしばしば発言する“お前たちがそこにいるってことを教えてくれ”の通り、対フロアではなく、対人間と対峙するスタイルは顕著で、新たなキラーチューンとして浸透している「キョンシースープレックス」でも一点を射抜くように見つめるメンバーの姿が心に残る。
開けたメロディと細やかなフレーズが中華色を華美する「極彩色に染まる」に続いたのは「天邪鬼」。ストレートなビートで押していきながら疾走感溢れる展開とどこか悲哀なメロディが重なりあうロックナンバーだが、その歌詞は最後の書き置きのような切なさが漂った。前々日の名古屋ワンマンで初披露されたというこの曲は孔雀座という存在に対するアンサーソングとも思える。
“最後の曲です。受け取って下さい。”で叩き込んだのは重厚リフとオリエンタルさとサビメロの壮大さをやんちゃな衝動で激しく包み込むまさにベスト・オブ・孔雀座と言える「九龍」。衝動を説得力に昇華することで生き様を響かせる彼ららしいステージはその名残惜しさから、最後に急遽「DANCE IN THE DARK」を“再見”させた。
悔しいぐらいに未来に活路を見出したくなる“人間”むき出しのライヴだった。
この日仕切りに吠えていた“負けるわけにはいかない”という言葉、その言葉の羽が宙を舞って再び降り注ぐことを待ちたい。孔雀座は6月17日に始動の地、渋谷近未来会館でその呼吸を止める。
2番手として登場したのは201号室。
12か月連続リリースを行うなど勢力的に活動中だが、実のところ今回のイベントが自身初の大阪でのライヴとのこと。未開の地でどのようなステージを見せるのか期待が高まる中、鍵盤の音と共に幕が開くと深緑の照明に照らされた4人のメンバーが佇んでいた。鍵盤に儚く寄り添う歌唱が緊張感を増幅させたのは「小鳥ノヤウニ幸セデス」。ぬるく温かいロックバラードで、ヘヴィ一辺倒な音像とは一線を画すスタイルを周知させる。学ラン風の衣装に学帽、フライングVを手に声をしゃがれさせるKEN(Vo)のシルエットは懐かしさよりも新しさを感じるものであるし、整然としたプレイとバンドサウンドが心地よいことで同期が効果的なギミックとして機能する。
「破滅のポエム」でも複雑リズムとギターソロによる場面展開は秀逸でありながら、中心には常に歌が配されるバランス感覚が201号室のレベルの高さを感じさせる。
MCでは“バンドとして今は遠征するスタンスじゃなかった”と前置きしながらも、“201号室の主催ライヴ観たいから行きますね”とわざわざ東京まで来た裏切り者には制裁を 千颯の熱い想いに応えたくて大阪まで来た旨を吐露。この3マンが意志の連鎖で成り立っていることを伝えたうえで、哀愁という言葉では事足りない情念乱れるバラード「愛の行方」を披露。4ピース故の音の輪郭と隙間は歌詞のデカダンな世界を染み渡らせたハイライトだったのではないか。フロアを十分に湿らせたところで「Fake」からようやく攻撃態勢にシフト。KENの絶叫をきっかけに縦ノリを生むと“初めての土地で初めての曲やっていいか!”と最新曲の「イエローハート」を投下。カラフルな照明の中で躍動するメンバーの姿に初見であろう層も好意的な反応を見せ、序盤のバラード応酬との対比も鮮やかだ。そのタイトルや歌詞からもオマージュというよりは明確なリスペクトを感じるこの曲で、これでもかと熱量を放出させ、足元もおぼつかないぐらい文字通り汗まみれになりながら、続いたのは「デスコ」。ダンスロック的な小気味よさとダイナミズムを共存させた発明とも言えるこの曲の強度はやはり抜群で、けたたましい破壊力で締めくくった「最悪」まで全7曲でそれぞれの楽曲が存在感を放ちワンマンライヴさながらのステージを披露してみせた。
楽曲のクオリティと引き出しの多彩さが201号室の魅力であることは間違いのだが、滾るパッションも忘れてはならない。メンバーはボロボロになりながらも、自信に満ち溢れた様子で堂々とステージを去った。
最後に登場したのはこの夜の首謀者=裏切り者には制裁を。
転換時には不穏な加工をされた音声が流され続けて、その内容に集中すればするほどに掴みきれずに不安、不快にも似た恐怖を煽られる。自身の世界観を突き詰めて表現するからこその主催と考えれば、開演前から既に功を奏したと言える。
長めの転換時間を経て、やっと幕が開くと登場するサポートメンバーは皆スーツ…いや、喪服か?意外な出で立ちで登場。ステージ背景には葬式で目にする鯨幕や顔の潰れた遺影が設置され、また至る所に提灯が配されている。まさにライヴハウスではなく斎場。そんな弔いの場に最後に登場した千颯はあろうことか柄シャツにジャケットで木魚を叩いて登場。ジャパニーズマフィアのような姿は不敬にもほどがあるが、その楽曲も物騒なものばかり。
オープニングナンバーは「酎毒死」。繰り返す自己嫌悪が這いずるが、ファストパートでの扇動力と対極にあるお経のような歌唱は呪いのように響く。音源ではか細い歌声でメロディをなぞるのが千颯の一つの持ち味だが、ライヴでは低音を使い分け自身の声をあくまで楽器のように見立てる。圧倒的な歌唱力で席巻するよりはむしろ一つの音として刷新していくスタイルは斬新で、その証拠にステージ上にはテルミンもセットされている。イントロで性急感を増しながら、途端に複雑なリズムに暴れ狂うボトムの力業と、音の波を泳ぐようなサビでのクリアな歌唱の押し引きが天秤のように絶妙な「人造人間」は破壊力も持ち合わせている。だが、それ以上に確かなキャッチーを有し、裏切り者には制裁をの持つセンスを存分に発揮した。
MCでは出演した両バンドへの感謝を述べつつも、ダウナーなイベントになることを宣告すると、続いたのは「SAN値の娼女」。ネオ密室系とも言える裏切り者には制裁をが創り出す、これからの時代のエポックメイキング的な1曲はオルタナティブでありつつ、千颯のアジテートと相まって一層攻撃的な響きをする。テルミンを使用しながら声色を使い分けフロアを睨みつけたかた思えば、途端に視線をくゆらせる立ち振る舞いは、主催ライヴであるにも関わらず千颯の人物像が何者か掴ませない独特な個性を放つ。斎場を模したセットとヴィヴィッドな照明の対比もなかなかに強烈で、ディープな見世物小屋に放り込まれたようなトリップ感を覚える。これまでに配信されている楽曲やMVからアーティスティックなイメージが先行している裏切り者には制裁を。もちろんその才覚は抜けたものがあるのだが、ライヴ全般に共通して言えるのは独特のバランス感覚の心地よさだ。芸術的な見世物として視覚を刺激したかと思えば、肉感的に煽り散らす、かと思えば次の瞬間にはまた違った表情を見せる…千颯はショートムービーの主演俳優のように場面場面で異なる自分を引き出してその世界を提示し続けた。
疾走する「鬱燦々」。強烈に煽られたオーディエンスは縦ノリで激しく応える。ヴィジュアル系のお家芸でもある転調も彼にかかると一筋縄ではいかないが、やはり抜群のメロディメイクによるキャッチーネスは今後更なるキラーチューンへの大化けを期待させた。
再びのMCでは“ちょっと黙って”と歓声を制し千颯が静かに語りだした。
“俺さ、なんか1曲作ろうと思ってさ、自分の奥底にちょっとでも触れてみようと思って色んな想いは出てきたんだけど、そうしていくうちに怖い夢を見るようになって。例えば、人に殺される夢、その中でも銃で撃たれる夢だったり、自分を切りつける人がいたり、逆に自分が人を殺す夢だったり、なんとも過激なたくさんの夢を見たんだけど……お尻を触るのはやめていただけませんか…”
と、背後に寄るサポートベーシストのJITANが何やら耳打ちを。すると再びマイクをとった千颯は、
“…めっちゃ良い雰囲気のとこ申し訳ないんですけど…パソコンの充電が切れそうらしいです。どうしたら良いと思う?”と語り、“僕は充電器を取りに行ってきます”と捌けるとさすがに会場からは笑い声が。
前代未聞の考えられないトラブルだが、そこは百戦錬磨のサポートギタリストの尚虎がMCを繋ぎ、JITANは“ホンマに俺ら一番怖い夢見てるよな?”と関西人の強さを発揮し大爆笑を搔っ攫う。そこからサポートドラマー志雄が機転をきかせアドリブのジャムセッションがスタート。トラブルをひっくり返す特大ファインプレイに会場は大盛り上がり。当の千颯はと言うと、ステージに帰ってくるも、その流麗なセッションをノリノリで楽しんでいる肝の据わりっぷり。やはり、この男ちょっと普通じゃない。
改めて披露されたのはなんと新曲だった。「銃で撃たれる夢」は千颯の歌声が艶めかしく、J-POP寄りのお洒落な1曲でゆったりとしたダンサブルさが良質だ。
思えばこの日彼が招いた孔雀座、201号室にも共通することだが、とにかくこれまでのヴィジュアル系にはなかったテイストがこのイベント「裏事情」の特徴である。もちろん各バンドに烈々しい攻撃力を誇る曲はあるものの、暴れてそれで満足と言ったバンドは皆無でどちらかと言うとそのサウンドメイク自体が根幹だ。フロアは漏れなく盛り上がったものの、そこで満たされ切ることのない奥深い味わいがあり、それこそ千颯が提唱するところの“令和サブカルチャー”なのかも知れない。
“この世に生まれて終わりだ”と告げた「産んだら死刑」では真っ赤に染まる照明のなかで楽器隊はその場に立ち尽くし演奏をしない。わらべ歌のようであり、ノイズのようでもある楽曲はこの令和においては胎動からの悪の祝福にも聴こえ、耳を塞ぎたくなる痛みを伴った。一瞬、赤子を抱くような仕草を見せた千颯の絶叫がこだまするなか観客も立ち尽くすしかない。
“俺はキレイなものじゃないと思う。借金もしたし、毎日追われたこともある。人から圧迫されたこともある。でも、それは自分のせい。このどうしようもない人間が歌う、こういう世界があるってこと。少なからずそういう部分あなたたちにもあるかもってこと。今日はそれを全て引き摺り出そうと思ってる。最後、俺なりの綺麗な華麗な終わらせ方で終わらせます。”
ラストは「ハラキリ万歳」。レトロ歌謡さもある退廃的なミドルチューンで50分以上に渡るステージを締めくくった。
が、予定外のアンコールに再び「人造人間」で応え、やぶれかぶれの完全燃焼で“もう呼ぶなよ”と吐き捨て千颯は姿を消した。
曲間のSEや作り込みも巧みで、1本の映画を見ているような感覚にさせる強烈な個性を放った裏切り者には制裁を。
一方で、信じられないミステイクは人間性を浮き彫りにするどころか、一層不明の状態を作りあげその正体を遠ざけて見せた。
意欲的なアティチュードもさることながら、その音楽の芯でそれぞれに説得力を有する裏切り者には制裁を、孔雀座、201号室。座標軸が近いこの3バンドがこのタイミングで遭遇することは必要であり、どこか必然であったのかも知れない。この夜を目撃した者が最も腑に落ちているのではないだろうか。
裏切り者には制裁をは、このライヴを最後に大阪から東京へ拠点を移すとのこと。
“まぁ寂しさはあるっすよ”と平熱で語りながら、次なる標的達との邂逅を冷静に睨みつける若者の第2歩目が今始まる。
TEXT:山内秀一
PHOTO:Senri.Tanaka(裏切り者には制裁を、孔雀座)、Gen'ozono Ryo(201号室)
SET LIST
2024.06.03 心斎橋CLAPPER 「裏事情」 ◉孔雀座 1. DANCE IN THE DARK 2. 929 3. ケセラセラ 4. キョンシースープレックス 5. 極彩色染まる 6. 天邪鬼 7. MAYDAY 8. 催眠警報!!!! 9. 九龍 10.DANCE IN THE DARK ◉201号室 1. 小鳥ノヤウニ幸セデス 2. 破滅のポエム 3. 愛の行方 4. Fake 5. イエローハート 6. デスコ 7. 最悪 ◉裏切り者には制裁を 1. 酎毒死 2. 人造人間 3. SAN値の娼女 4. 鬱燦々 5. 銃で撃たれる夢 6. 終点とヒステリー 7. 産んだら死刑 8. ハラキリ万歳 EN.人造人間
関連リンク
◆裏切り者には制裁を Official Site ◆201号室 Official Site ◆孔雀座 Official Site