【夜光蟲】ライヴレポート<路地裏単独公演『欠落園』>2026.09.16 club asia

『欠落園』
劣等感・疎外感・孤独感。他者と生きる世界において切り離すことができない感情に苛まれながら日々を生きる、落伍者たちの楽園。
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春~夏にかけて集中的に開催された主催シリーズ「飛んで火に入る夏の蟲」で強烈な個性と世界観を展開するバンドたちと刺激的なバトルを繰り広げ、バンドとしてまたひとつ先のフェーズへと歩みを進めた夜光蟲。
「コンテンツは絶えず作る、広げる、攻める、止まらない。」と宣言する彼らは、その鮮烈なヴィジュアルと次々に配信される楽曲や映像はもちろんのこと、サークルモッシュや逆ダイに加えてラーメンまで登場するライヴパフォーマンス、八雲(Voice)が執筆した小説や写真詩集といった紙媒体での作品、15種類のTシャツを一気にリリースする異例のグッズ制作と、全方位に向けて攻めの姿勢を貫きとにかく話題に事欠かない。
当然のことながら、ヴィジュアル・シーンを愛する国内外のオーディエンスはもちろん業界関係者からの注目度も高まる一方で、バンドがあらゆる方向に張り巡らせた蜘蛛の巣は着実に獲物を捕らえ続けている。
そんな彼らが『欠落園』の舞台に選んだのは、渋谷club asia。
大きなミラーボールと3面ディスプレイを擁した会場を、3人がどう浸食していくのか期待が募る。
降り出した雨は激しさを増し、雨粒が路面に強く叩きつける渋谷。多様な国籍・世代・価値観の人間が絶え間なく行き交うこの街に、夜光蟲の路地裏が姿を現した。
ゆっくりと暗幕が開き、巨大ディスプレイに映し出されたデコラティブなフレームの中に夜光蟲のロゴが浮かび上がる。
「どうにもならない、飲み込めなかった。降り積もる苛立ちや焦燥、掬ってあげたかった。プシュケーに祈りを。プシュケーに祈りを。プシュケーに祈りを・・・。」
リフレインする言葉が欠落園への扉を開き、現実世界から切り離すように意識を誘っていく。

ステージが激しくフラッシュして蟲たちの降臨を知らせると同時に、沸き起こる手拍子。
歓声に迎え入れられたJohannes(Drums)とTaizo(Guitar)は両サイドのお立ち台に上がり、路地裏電脳秘密倶楽部のシンボルマークであるピラミッドアイを両手で形作ってみせる。
最後にステージへと歩み出た八雲がゆっくりとピラミッドアイを掲げるとフロアも一斉にそれに倣い、今宵の儀式は幕を開けた。
「落伍者、出来損ない――。」そう呟き始まった『psyche』。
枯れ果てた草木たちが色を取り戻すように、“人のフリ してるだけ”の日常から本来の自分を取り戻すこの場所へと帰還した同盟員(オーディエンス)たちは、折り畳み・手拍子・ジャンプと早くも一体感を見せ、「祈りなさい。」の言葉に導かれステージに向けて祈りを捧げる。
その様子を眺め「落伍者の園、欠落園へようこそ。聞かせなさい。」とコールアンドレスポンスを求める八雲、手招きして耳に手を当ててみせるTaizoとスティックを突き上げるJohannes。
イントロからゾクゾクした『剥製アリー』でフロアから振り上げられた拳と大きな声を「聞こえません。」と一蹴したかと思えば、必死に喰らいつくオーディエンスを「おいで。」と誘い、意のままに翻弄していく。
繊細な音色でギターソロを聴かせたTaizoのターンとJohannesのキメの一打がガッチリと噛み合う気持ちのいいバンド感、八雲を含めたステージ上のメンバーのトライアングルのバランスの美しさに改めて感動を覚え、間髪入れずに『生まれ落ちたが運の尽き』へ。



「人間失格、落ちこぼれ。欠落したままここまで生きながらえた、君たちの歌だ。踊れよ。」
Johannesがスティックを大きく打ち鳴らし、ギターパーカッションを決めたTaizoが首を掻き切る仕草を見せると、同盟員たちは左右にモッシュしてフロアを揺らし出す。
この場に居る全ての人間が抱えている怒り・絶望・鬱屈した想いの塊を爆発させるような間奏のドラムの陰鬱でドラマティックな重厚さ、ビリビリとした熱が宙を斬る。
「1ヶ月間、寂しかっただろ。全部置いていけ。」
負の感情を昇華させるように十字を切るTaizo。そう、ここは“死んだふりで生きてる”人間たちの楽園なのだ。
逆光に浮かび上がるシルエットに見惚れた数秒間、ピンク色に染まったステージにロートーンボイスが響き渡った『無自覚を刻め』。
ディスプレイに映るフレームが、心を表すように不安定に揺れる。その前で、“強がらなくてもいい 君は君だ 僕が肯定しよう”と同盟員1人1人と目を合わせるように歌う八雲の姿が印象的だった。

暗転すると、フロアからは大きなメンバーコール。
熱烈な声色からも、同盟員たちがこの1ヶ月どれだけ夜光蟲の路地裏を待ち望んでいたかが伝わってくる。その声を受け止めながら、八雲が静かに口を開く。
「路地裏電脳秘密倶楽部、夜光蟲です。『欠落園』というこのタイトルは、僕の人生において何故かずっと自分の中だけに漠然とあった言葉でした。正直、昨今のバンドスタイルで、ワンマンが決まっているにも関わらず1ヶ月もライヴを空けるようなバンドはなかなかいないと思いますが。今日は、会っていなかった1ヶ月間の間に溜め込んだ沢山の鬱憤を君たちと共有して、全てこの場所で燃やし尽くして帰ろうと思います。よろしくお願いします。」
「燃やし尽くす」という言葉からも、“この場所へ集ったからには、鬱積したものは一片たりとも残させない”という強い決意を感じた。
「会えなかったこのひと月を思って、君たちへ――『愛に狂って』。」
フロア一面に灯された狂愛灯の青い光、離れていた時間を取り戻すように、白い花で装飾されたマイクスタンドに寄り添って歌い上げる八雲。
まるで花束を抱えているようにも見えるその姿と、80年代のアイドル歌謡を彷彿とさせるメロディーが絶妙にマッチして映る。
光るスティックに持ち替え、時折振り付けを交えて演奏するJohannes。止められない感情を狂気と悲哀を交えながら表現したTaizoの長尺ギターソロから、シンセの音色が降り注ぐ新曲『du vase - 愛に狂った結果 -』へと展開していく。
夜の蒼に差した白い月明り、囁かれた「du vase」。風に揺らめく薄いベールのカーテン越しに世界を眺めているような、時が止まった出口が無い場所で、はらりと舞い落ちる花びらのように想いを零し歌う八雲。その歌声を、Taizoの爪弾くひたすらに美しいアルペジオと楽曲に酔いしれるようにプレイするJohannesのドラムが静かに彩り、退廃的で耽美な世界観で魅了していった。
余韻に浸る間もなく、『NOCTURNUS』のRapと縦ノリが空気を一変させた。
“もう、どうでもいいだろ・・・”すべてを諦めた世捨て人のように呟けばフロアは手バンで揺れ、じわりじわりと迫りくる闇。八雲のオペラ歌唱とTaizoの気だるげなラップの対比が不気味に響き、底無しの悪夢へと突き落とす。
暗転したステージに響いた憂いを帯びたギターの音色が、『蛾々』の始まりを告げる。夜光蟲が生み落とした最初の楽曲で「電脳秘密倶楽部、夜光蟲です。」と改めて口にした八雲、真っ赤な世界のより深い場所へと引きずり込むように同盟員たちの脳と心を蝕む。
シンバルミュートを効果的に取り入れ、音でもプレイでも魅せるJohannes。叙情的で流れるようなソロを聴かせるTaizo。極彩色の羽音の速度が増すように、演奏の熱量も上昇していった。
「だから、世界でただ1人、僕だけが君を幸せにできると勘違いさせてくれないか?」
お馴染みになった口上からの、『漆黒横丁』。
静かに綴られた哀傷に満ちた葛藤は、やがて激情へと変わっていく。自らの心臓にナイフのようにマイクを突き立て、心音を響かせる八雲。暫し呆然と立ち尽くした後、静かにステージを後にする。
アウトロで某有名ロードショー番組の初代テーマ曲の名フレーズを取り入れた斬新な長尺ソロを聴かせたTaizoのセンスと遊び心に驚嘆していると(これがまた見事にハマっていて秀逸だった)、ディスプレイには『ヨハネスタイム』の文字が浮かび上がった。
ピンスポットに照らされたJohannesがトリプルスネア仕様のフルセットを自在に操るドラミングで惹きつけ、手拍子を促す。
同盟員たちの手拍子に乗せリズミカル且つテクニカルな演奏でドラマーとしての技術力を見せつけたかと思えば、キメの部分でパフパフと鳴るおもちゃのラッパのファニーな音を取り入れてみたり、先ほどのTaizo同様Johannesもまた遊び心満載なプレイで楽しませてくれる。バスドラに取り付けられた3Dファンの演出しかり、とにかくオリジナリティー溢れるアイディアが豊富で決して飽きさせないのがさすが。
一打ごとに様々なポージングでコールアンドレスポンスを求め、この場面では定番とも言えるドデカスティックでもプレイして盛り上げる。
「ドラマーというより、エンターテイナーでありたい」そんなJohannesのポリシーを体現したドラムソロだった。

ディスプレイに『adora』のMVが流れ出し、ステージへ飛び込んできた八雲とTaizo、「君たち、久しぶりに会ったら初対面みたいになってしまう人間だろ?思い切り来ていいんだぞ。」と八雲が煽れば、Taizoも同意を示しギターを掲げる。
うわごとのように繰り返される“愛して”、咲き乱れた祝福はダンサブルな『sweetie』へと繋がっていく。
「タオルを・・・拳を・・・掲げなさい。」カラフルな照明に照らされたフロアに掲げられたタオルがくるくるとまわりだす。
“どうか不幸なままでいて 私を安心させたまま”“他人の不幸はそう 蜜の味”
可愛らしい曲タイトルとキャッチーなメロディーに、相反する歌詞の毒気。やはり一番恐ろしいのは人間なのだと痛感し、苦々しい気持ちに襲われる。

そんな心中を見透かしてトリップさせるように、フラッシュライトの中に響く天国ビート。ドラムセットから飛び出してきたJohannesが全力でダンスを見せ、八雲がゆっくりと語り出す。
「改めまして、club asia。『欠落園』へ、ご来場ありがとうございました。我々夜光蟲は、君たち同盟員に対して『まともになれ』とは一切言いません。頭のおかしい奴が救われる音楽があったって良いと思うんです。だから、堕ちよう・・・天国まで!」
リズミカルでドラッギーなサウンドに身体を委ね、一斉に揺れ始めたフロア。
「まだまだやれるよな、同盟員。見せてくれよ、お前たちの底力。」と求める八雲、モニターに足をかけ人差し指を天に向け“跳べ”と合図するTaizo。同盟員たちは“天国に注射”のフレーズに合わせて高くジャンプを繰り返した。(ドラムセットの中でも隙あらば踊るJohannesのダンスバリエーションがどんどんパワーアップしていることも、ここに書き記させて頂く)

「逸脱し壊れたままで描く、僕たちの『art』。」
そう言って始まった、新曲『art』。公演3日前にサブスクリプション配信が開始された『du vase - 愛に狂った結果 -』以外にも新曲が用意されていたことにも驚いたが、曲頭からボイスチェンジャーを多用したTaizoがソロで歌い出したり、哀愁漂う歌謡メロディーとエレクトリックなミクスチャーロックが融合していく曲展開にも衝撃を受ける。
夜光蟲にしか生み出せない、陰と陽の絶妙なバランス。とんでもないスピードで新たな引出しを開けていく3匹の蟲と、初めて聴いた曲にもしっかりと喰らいつく同盟員たちが頼もしい。
続く『セイディーメイニー』で「これをやりたかったんだろ?」と問い掛ければ、重厚なサウンドにヘドバンの波が埋め尽くす。上手へと移動してきた八雲に気付いたTaizo、向かい合わせで演奏してアイコンタクトを交わすと2人はお立ち台へと駆け上がる。
「今日改めて、ここがお前たちの生き恥の命日!」その言葉に応えるように、フロアからのコーラスがasiaの天井高く響き渡る。
「全部全部・・・全部、壊れちゃえよ。」
それでも全く満足する様子の無い蟲たちは、自他ともに認める“令和イチ頭のおかしい曲”『BUGってる』で加速していく。
横モッシュする同盟員たち、それを眺めていた八雲がフロアへ降り立って「やれるよな、asia!死ぬ気で来い!」と叫べば、彼を中心とした大きなサークルモッシュが巻き起こる。上階から見たそれは次々と獲物を取り込む蟻地獄そのもので、熱狂の渦を可視化させながら増幅していった。
「生きてるかい!?俺は、今日お前たちをぶっ●しに来たんだよ!死ぬ気で来い!」
怒涛の勢いで『混蟲 LESSTRANCE』へと突入し、完全に箍を外された同盟員たちと「たべたーい!」のコールアンドレスポンスを繰り広げる。
ヴィジュアル系のフルコースともいえる、逆ダイ・ヘドバン・折り畳みを惜しみなく提供してくれる楽曲。
シャウトして扇動する八雲、ステージから身を乗り出し“ここまで来てみろ”と胸を叩くTaizo、ド派手にシンバルを打ち鳴らすJohannes。始動後しばらくは「大人しいバンドだと思われがちだ」と悩んでいたことが、今となっては嘘のようだ。
「そろそろわかっただろ?様子見していた奴らも、前に来ていいんだぞ。」ラーメンを手にした八雲が美味しそうに麺を啜りながら煽れば、ステージ目掛けて飛び込む同盟員はループを重ねるごとに増え、ステージもフロアも混沌を極めていく。
「あぁ、気持ちよかった・・・。」全て食い尽くした八雲がそう口にして、club asiaのボルテージは最高潮へと達した。

その熱をクールダウンするように、『イキヲトメテ』の切ないメロディーが吹き抜けていく。
“足りないものだらけで生きて 足りないまま朽ちていくよ キミと”
淡々と流れていたEDMサウンドは、答えの出ない問い掛けと共に溢れ出した感情でエモーショナルに疾走し、ギターの余韻を掻き消すように降り注ぐ雨音に包まれる。
「あなたは、歪んだまま・・・それでいい。」
遺言のように響いた肯定の言葉、『遺恨』が欠落園の終焉を告げる。
深い深い場所まで突き刺すような八雲のロングトーン、泣き笑いのような表情を浮かべ膝から崩れ落ちて歌う姿が胸を抉る。じっと一点を見つめていた彼は、やがて白い光に呑み込まれ、その姿を消した。
天を仰ぎながら全てを浄化するような音色を奏でたTaizoと、感情を込めたドラマティックなドラムを聴かせたJohannes。深く一礼してステージを後にする彼らに、惜しみない拍手が送られる。
そして、新曲『アポトーシス』のサブスクリプション解禁と、2026年12月23日・新宿Wild Side Tokyoでの単独公演、そして、2027年2月12日・池袋harevutaiにて夜光蟲2周年記念儀式集会『- 素敵な非日常 2 -』が開催されることが発表され、同盟員たちからは再び拍手が沸き起こった。
外へ出ると、激しい雨は小雨へと変わっていた。
そこにあったはずの欠落園は跡形も無く姿を消し、余韻から抜け出せぬまま渋谷の雑踏に立ち尽くす。
でも、数時間前とは心の重さが変わっていた。鬱屈した感情はすべて、夜光蟲が焼き尽くしてくれたから。
救済の場は、また必ず目の前に現れる。だから、その日まで生きながらえるのだ。彼らが授けてくれた肯定を胸に灯し、戸惑うことなく足を踏み出そう。
文:富岡 美都(Squeeze Spirits)
RELEASE
「アポトーシス」URL
https://linkco.re/Z2BE0f3a
サブスクURL
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=943242


関連リンク
◆夜光蟲オフィシャルX
https://x.com/yakou_koushiki



