【怪人二十面奏】ライヴレポート<十周年記念単独公演巡業二〇二五「天」大千穐楽「十年奏會」>2025年9月17日(水)Zepp Shinjuku◆さらなる高みを見据える静かな闘志と、まだ見ぬ景色への飽くなき探究心。そして確かな覚悟────。

2015年6月に本格始動し、結成10周年の節目を迎えた怪人二十面奏。
4月21日 横浜Music Lab.濱書房から全国20か所を巡る<十周年記念単独公演巡業二〇二五「天」>を展開し、その最終公演となる<大千穐楽「十年奏會」>が、9月17日 Zepp Shinjukuで開催された。
ワンマンライヴ史上、最大規模となる本会場。開演前のフロアには、今か今かと待ちわびるファンの期待と緊張が入り混じった独特の空気が漂う。
暗転とともにステージを覆っていた黒幕が開くと、背後一面にバンド名と公演名を記したスクリーンが映し出され、場内はざわめきに包まれる。
最新アルバム『天國』のオープニングS E「天國 -インストルメンタル-」が流れるなか、龍(ギター)、竹田和彦(ベース)、Shinsaku(ドラム)の3人のサポートメンバーが登場。
続いて、新衣装【第十五章 十年奏會、新宿の怪異 篇】を身に纏ったKEN(ギター)、マコト(唄)が姿を現すと、抑えきれない感情が一気に解き放たれた。

オルゴールの旋律で始まる「ヲルゴール」を披露した後、“単独公演巡業二〇二五『天』、9月17日 Zepp Shinjuku、怪人二十面奏ー‼︎”と、決起趣意書を読み上げるかように勇ましくマコトが叫ぶ。
二・二六事件をモチーフにした、重厚なサウンドと軽快な歌メロが印象的な「セウワヰシン、一九三六二二六」、グループ・サウンズ(GS)の要素を鮮やかに昇華させた「日撃ウエスタンカーニバル」で、『天國』の世界観が具現化されていった。


“とうとう始まりましたね。会いに来てくれてありがとう!! 会いたかったぜ、東京ー!! 今日はただただ、この記念すべき10年の節目を楽しむだけです。本気でぶつかってきてくれ! いいかー!!“と観客を煽り、「ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム」へ。観客1人残らず巻き込み熱狂を煽動すると、ファンはマコトの言葉に呼応するように激しく身体を揺らした。
さらに、前身バンド・ドレミ團時代の曲を再録した、セルフカヴァーアルバム『十と十』(2025年4月発売)から「夢幻洋灯」「彼岸花」を演奏。現メンバーにより再構築され、まったく新たな息吹を得て届けられた。

心の内をそのまま吐き出すようにアカペラで始まった「ヰ書」。“父よ母よ同志よ愛する君よ/もう一度だけ君に会いたかった”の一節に、胸の奥から熱いものが込み上げた。
続く「空遥」では失われた“君”への祈りを込め、天を仰ぎながら歌うマコトの姿が深い鎮魂の想いを映し出し、観る者の心を震わせる。KENは無表情の奥に情熱を宿し、その想いを響かせるように印象的なフレーズを紡ぎ出す。
怪人二十面奏の真髄は、激しく重い楽曲による狂騒だけでなく、言葉と旋律が織りなす深い情感にある。そこには、滋味深く、陰影に富んだ“音の物語”が息づいているのだ。

“よく来たな、ほんま。平日やで? こんな治安の悪いとこに(笑)”とマコトが冗談を交えつつ語りかけ、奏でられたのは「新宿」。艶やかなピンク色に染まるステージで、無機質で喧騒に満ちた街・新宿を背景に、過去の恋に未練を抱えた女性の孤独と葛藤を歌い上げた。
続く「太陽デモクラシー」では、小気味よいサウンドに合わせて観客が手にした旗が一斉になびく。
ボルテージは一気に加速し、ライヴは後半戦へ突入。
赤く光る“包丁ライト”(包丁型の公式グッズ)を振りかざす「G,Jクローバー連続殺人事件」、戦時下の日本を題材にした「幻創大東亞狂榮圏」と、怪人二十面奏の真骨頂とも言える、狂気と熱狂が交錯する楽曲が怒涛の如く畳みかけられた。
本編ラストは「憂いの國」。戦争や特攻を想起させる犠牲の記憶を描きつつ、“普通の人生を送りたい”というささやかな願いを痛切に響かせ、その余韻を残したまま幕を下ろした。


アンコールでは、ツアーTシャツ姿で登場し、“今日ここに集まってくれて心から感謝です”と語ったマコト。
切なくも親しみあるメロディの「噫無情」、ヘドバン&折りたたみ必至の「可不可」「愛憎悪」と続き、ラストを飾ったのは「然らば、人生」。うねりを上げるフロアに銀テープが舞い、喪失と痛みを抱えながらも人生の儚さと美しさを受け入れ、静かな希望を示す詩的な歌で締め括った。



“10年間で一番いい景色を見ることができました!”とマコトは感謝を伝え、 KENは“4月から素晴らしい日々でした。ありがとうございました。これからもよろしく”と未来への意志を語った。
そして、11月28日 高田馬場CLUB PHASEでマコト誕生全曲単独公演<精神的M依存のスゝメ>の開催を発表。
さらに2026年2月からの新たなツアーも告知され、今後の展開にますます期待が高まる。
最後は、全20公演を共に走り抜けたサポートメンバーも加わり、一列に並んで手をつないでバンザイしながらジャンプ。
この夜、怪人二十面奏が観せたもの──それは、10年という歳月の重みと、なお進化を続ける生きざまだった。

“10年一区切り”とはよく言うけれど、本公演を終えた彼らの表情からは、“落ち着き”や“これで満足”といった言葉はそぐわない。むしろそこにあったのは、さらなる高みを見据える静かな闘志と、まだ見ぬ景色への飽くなき探究心。
そして確かな覚悟だった。
終幕は新章の幕開け。怪人二十面奏の狂詩曲は、いま、ここから鳴り響き始める──。
文:牧野りえ
Photo:小林洋介 / 小浜早苗
LIVE
・仮装特別単独公演
「令和七年怪奇幻想劇場」
10月30日(木)西永福JAM
開場18:00/開演18:30
・マコト生誕全曲単独公演
「精神的M依存のスゝメ」
11月28日(金)高田馬場CLUB PHASE
開場14:30/開演15:00
関連リンク
怪人二十面奏オフィシャルサイト
http://k20.jp