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【KHIMAIRA vol.2】ライヴレポート◆2024年6月29日(土)池袋EDGE◆”正しい背中”を見せるべく覇王Royz降臨。MAMA.、色々な十字架、KAKUMAY、HOWLと繰り広げた意志交換と新たな物語の始まり。
4月12日・13日・14日に渡って総勢14バンドが集結し、池袋EDGEで開催されたVISUNAVI Japan主催ライヴ「KHIMAIRA」。早くもその第2ラウンドが同じく池袋EDGEで決行された。
ギリシア神話に登場する怪物キマイラは頭、胴体、尻尾にそれぞれ異なる生物のDNAを宿す。
様々な要素を一つの符号のもとに集約させるのがVisual Rockだとするならば、まさに本イベント自体も複合獣のごとく入り乱れながら共通言語を模索する物語である。
この物語を紡ぐために降臨したのはRoyz。
そして座標を広げるべく、鋭利な個性で闘いに挑んだのはMAMA.、色々な十字架、KAKUMAY、HOWL。
会場キャパシティの3倍以上の申し込みが殺到した本公演は当然ながら秒殺ソールドアウト。
確立したスタイルは決して混ざり合うことはない。だからこそ、この世界は美しかった。
●HOWL
息遣いが緊張感を生むSE「PATHW●RD」がドラマティックな世界観に誘うと、トップバッターとして登場したのはHOWL。真宵(Vo)が手の平をかざし「アンダーテイカー」からスタート。
<嘘つきな夢のまま終わらせたくなんかない>と切迫する歌詞に呼応するように、曲が終わると温かい拍手に包まれた。縦ノリで煌びやかに揺らす「先天性君症候群」では初っ端から満員のフロアに拳を要求したかと思えば、鍵盤の音色にミラーボールが映えた「メロドラマ」へ。様々な要素の複合体であるHOWLらしさだが、続いたのはまだ音源化されていない新曲。その名も「ライヴハウス」。
軽快かつロケンローなナンバーはモンキーダンスを生むも、<I’m sorry>と繰り返し<どこにもなじめない>と唱えられるのはこれまでの活動に対するアンサー的なナンバーだろうか。
「極楽浄土」は異色な和の世界観がクリティカルヒットし、後方にまで徐々にひたむきな魅力を浸透させてみせた。本番直前で大幅に変更になったものの、実のところ当初、この日のセットリストは2019年時にリリースされた楽曲のみで構成されていた。その意図について真宵は“今はこうやってヴィジュアル系をみんなで盛り上げようってイベントがあるけど、当時はなかなかそういう機会がなかった。だけど、その当時に生んだ楽曲でこういう満員の会場に届けることが出来たら、自分たちは間違ってなかったんだって確信を持てる”と語った。結成初期のクロージングソングで、シティポップさに疾走感がクロスする「An inch ahead」まで自身のポップサイドにシフトしたメニューでHOWLは駆け抜けた。
7月26日(金)開催の<KHIMAIRA vol.3>でどのような姿を見せるのかが楽しみだ。
●KAKUMAY
4月に自身初となる恵比寿リキッドルームワンマンを大成功に収め、ノリにノッてるKAKUMAY。イントロからしてこれまでのKAKUMAY色と一線を画す最新ナンバー「噛み跡」からライヴをスタート。
サビでの抜けの良いメロディは相変わらずだが、展開・サウンド共に引き出しが増し、ラップまで披露する真虎(Vo)の存在感も比例するように大きなものになっている。
“もっと巻き込め!”と共犯性の高いオーディエンスの圧倒的な熱量を武器に変え、初見であろう層にも気勢を放射していく。様式美に特化した上手ギターNERO(Gt)と、一心不乱に暴れ狂うアザミ(Gt)のアンバランスさはむしろ好意的に作用し、暴れ狂う晴(Dr)と、楽しみながら俯瞰する力量を発揮するゆいと。(Ba)と5人バンドとして、以前と比べて遥かにブラッシュされているスタイルは目を見張るものがあった。
誤解を恐れず言えば、並々ならぬ成長を見せた姿は1年前とは正直まるで違うバンドだ。
バンドとメディアの関係性について言及し、バンドもメディアも熱さをぶつけ合うことを宣言し雪崩込んだのは「共依存」。この日はアザミが予ねてよりリスペクトしていることを公言するRoyzと念願の初共演を果たす側面もあり、一層チャレンジャー色が濃かったKAKUMAYだが、楽曲を連ねるにつれワンマンライヴさながらの光景に。ワビサビの効いたメロ、転調、アグレッシブなステージは00年以降のヴィジュアル系ロックの王道を継承しているようにも思える。タイトルとは裏腹に光も射す「反抗期」、<誰かが言った『このバンドはライブがイマイチ』だって>と衝撃的なリリックから始まる「No.1」まで、終始この日に賭ける魂を込めた会心のステージを終えた。
KAKUMAYは来年2月にZepp Shinjukuでのワンマンライヴを控える。
●色々な十字架
ステージ上手に配された白幕にゆらめく、<色々な十字架>の文字が第3の刺客の登場を告げる。より耽美さを増したヴィジュアルが洗練された印象の5人は、手始めに「蜜」を選択。これまで登場した2バンドとも明らかに異なるサウンドメイクと、お馴染みV系クラシックなテイストと倫理観崩壊済の詩世界の掛け算による“混ぜるな危険”は見事で、一気にフロアの空気を変えてみせた。
精力的な活動による知名度の上昇も一因だろうか。以前よりも受け入れられていることは明らかで、メンバーも個々にどこかセクシーさや、ある意味アイドル的な魅力も増しているなか、バンド屈指のハードチューン「かなり耽美」ではヘッドバンギングも誘発。ヴィジュアル系以外のジャンルとの共演も多い、色々な十字架にとっては珍しくもある対バンに真っ向勝負する並々ならぬ決意を感じた…のも束の間、MCでは自由奔放にボケまくるtink(Vo)がAqua Timezの「虹」を熱唱し爆笑をさらう一幕も。kikato(Gt)の溶けるようなクリーンアルペジオからコスモティックなtacato.(Gt)のソロに繋がる構成に、とにかく動きまくるmisuji(Ba)のフレーズとパワフルかつタイトなdagaki(Dr)の楽器隊が90年代×00年代の個性の抽出も具現化する「TAMAKIN」。
楽器を弾かないスタイルがMALICE MIZERからの多大な影響を感じさせる「GTO」では、“GTO!ヤンクミ!”のコール&レスポンスでオーディエンスをこれでもかと困惑させ、仕舞いには仲間由紀恵の物真似で“小田切!上田!”と叫ぶ一幕も。フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日の共演を勝手にステージ上で実現させるコアメンタルっぷりは異質の一言では片づけられない。
字余りなリリックと刻むフレーズが前のめりなヴィジュアル系を香らせた「グローリー・デイズ」、tinkの太く伸びやかな歌声に包まれた「凍らしたヨーグルト」まで独特過ぎる世界を繰り広げた色々な十字架だが、演奏の確かさが説得力の根幹であるインパクトも残してみせた。
●MAMA.
今年1月にリリースされ堂々たる代表曲へと育った「MARIA」から激しいステージを見せたのはMAMA.だ。この日のラインナップの中で最もダークなバンドらしく、その場の空気など気にすることもなく淡々と自分たちのベストを注力する姿は風格すら感じさせるもので、1フレーズ毎にヘドバンの壁が広範囲に増幅していく。
ついに音源化された別れと切実な想いを綴った「RAIN.」は命依(Vo)のラップが導入となるメロディアスかつデジロック調な1曲で、「MARIA」と共にバンドの新たな風を感じさせるものだ。曲間で同期が停止するハプニングもあるにはあったが、“何か弾いて!俺がラップするから”に応えるようにJiMYY(Gt)を中心に即興でジャムりながら原曲へ回帰する、特大ファインプレーで一気にオーディエンスを味方につけると、命依は“へッ!”と吐き捨て、不敵にニヤリとしてみせた。
“今日、俺らだけガラ悪くてすいません(笑)普通じゃダメなんだよ!もっと狂っていこうぜ!”とアジったハードな「Psycho」は明滅する赤紫の照明と混じり合いは悪夢のように心象を昂らせる。
この日、命依のヴォーカリゼイションはとりわけ好調であったし、元来、陰鬱な世界を描くバンドだが、決して内向的ではない力強さも持ち合わせる。これぞMAMA.といえる時間ごと沈ませるように柔らかなバラード「Nightmare」。
続いた「命日」では、掲げられたれたマイクに向けてオーディエンスの合唱も起きた。
世界への絶望を詰めた1曲でイベントの空気ごと奈落に堕とした最後は、とどめの「ヒステリア」。不安定に視点を揺らせながら、感情を枯らす気迫でMAMA.はステージを後にした。
●Royz
イベントのトリはもちろんRoyz。
会場の空気が期待に膨れ上がったところで楽器隊の3人が登場すると、大歓声が巻き起こる。最後に舌を出しながら鋭い眼光で登場した昴(Vo)の姿はまさしく魔王降臨。新衣装で登場というサプライズにもオーディエンスはさらに沸き立った。
“手加減なしで倒しに行く”との宣言通りのっけから惜しげもなく「ANTITHESIS」をドロップ。
その音像からしてモノが違う、当然だが。公大(Ba)の獰猛なフレーズをきかっけにラウドにスイングする「Killing Joke」然り、昴の絶対的な歌唱と声質に集約される様は塊としても個としても磨かれ続けた力量をまざまざと放ち続ける。一つになったフロアにそれでもまだ物足りなさ気な視線を送るそのシルエットは強大で、恐怖すら感じさせる。ヴィジュアル系の必殺技である転調に次ぐ転調も、着想に留まらない縦軸の再現性と表現力の高さでRoyzが何たるかを見事に体現した。
昴のアカペラから雪崩れ込んだ名曲「クロアゲハ」では智也(Dr)のドラミングが会場に鞭打つように跳ね響く。“普通のトリのバンド、Royzです。”とあくまで並列平等な殴り合いであることを強調させた「丸の内ミゼラブル」は杙凪(Gt)の魅力でもある上品で流麗な佇まいが、歌謡的メロディと相まって一層際立った。パワー溢れるアグレッシブかつヤンチャなステージのイメージもあるRoyzだが、場面場面でその場に佇む輪郭だけでサウンドにグっと引き込む力は流石のもので、この日共演した若いバンドにとっても大きな財産になったのではないだろうか。
キラーチューンを集中砲火のごとく容赦なく浴びせると、轟音が狂気的な世界観を内包する「INCUBUS」へ。癖になるサビメロと振付の一体感も抜群であったし、妖しく乱れるように中世的な艶めかしい歌唱は会場を嘗め回さようにドロついてみせた。
起爆装置して機能する「キュートアグレッション」でも無慈悲なほどに精度の高いアンサンブルに、クリアな歌声とが吼えるような歌唱の使い分けの説得力で、ダイナミズムとスキルが共存することの必要性を、そのサウンドを以って訓導した。
“15年間ヴィジュアル系をやってきた俺らが、上の世代を下剋上してかなあかん。逆を言えば、下の世代の子たちが俺らのケツを叩いてくれなあかん…(中略)…俺らが出ることで、良い背中を見せれることで、若い世代のカンフル剤になればと思う。俺らもファンと一緒にやってきた15年間に自信を持ってるんで、俺たちだけじゃなくて、俺たちとファン共々の姿を見て何か刺激を受けて自分のバンドに持って帰って下さい。”
そう語った後さらに、Royzの音楽に触れることでヴィジュアル系に目覚め、バンドマンになった経緯のKAKUMAYアザミを始めとする若いバンドとの邂逅への意義を述べ、贈られたのは、アザミにとって思い出の1曲でもある「eve:r」。だった。想いの連鎖を繋ぐべくこの夜の“ラスボス“として君臨したRoyzは、最後に早くもアンセムとなっている「GIANT KILLER」でトドメを刺した。直訳すると”大物食い“でもあるこの曲、15年のキャリアを誇りながらも今なお勢いに乗るRoyzのアティチュードそのものでもあり、この夜Royzと対峙した未来ある若手への究極のエールでもある。その超完全燃焼には誰もが納得し、アンコールは一切起こらず大喝采だけが会場を包み込んだ。
憧れを知るからこそ、逆もまた然り。
昴の言葉を借りるならば“正しい背中”は見るものでもあり、やがて見せるものになる。
良いバンドには良いファンがつくという情熱の篭った言葉しかり、“世代”などという主語で片づけられてしまう無意味な壁を意図も容易く取っ払ってしまったRoyz、そして、信頼のおけるファンと共にそのきっかけを作ったMAMA. 、色々な十字架、HOWL、KAKUMAYにとってネクストフェーズに突入する1日になったことを切に願う。
最後に、Royzのフロントマンがラストナンバーの前に語ったこの夜の本質を記して、本レポートを締めくくりたい。
“負けを恐れないでほしい。たくさん負けて、たくさん悔しくなって…ファンと一緒にね。正しい負け方を覚えていってほしいなと思うし、その悔しさって大きくなる一番のバネやと思ってるから。…負け方にもよるよ?ただ負けるだけじゃなくて、リスクを恐れないでいってほしいなと。(この日対バンした)彼らとも、今回はSPECIAL GUESTっていう枠で僕ら呼ばれたけど、もっと同じ立場でやりたいなって思ってるし、必ず…ファンと一緒にね!!今の俺らのいるところまできっちり這い上がって清算しに来てください!よろしくお願いします!” ___________Royz 昴
また、この日の終演後には「KHIMAIRA vol.4」が発表された。ラインナップは201号室、RAN、KIRA、裏切り者には制裁を、トリカブトの5組。うち4バンドはKHIMAIRA初出演となるが、そのモダンなスタイルはこれまでのヴィジュアル系の概念を刷新…さらにその先まで手を伸ばす意欲的な音楽スタイルでもある。最新鋭のイベントの動向もチェックしてほしい。
Text:山内 秀一
Photo:A.Kawasaki
<HOWL>
•アンダーテイカー
•先天性君症候群
•メロドラマ
•ライヴハウス
•honey♡drunker
•極楽浄土
•An inch ahead
<KAKUMAY>
•噛み跡
•IDOL
•BITE
•アーティスト
•反抗期
•No.1
<色々な十字架>
•蜜
•かなり耽美
•TAMAKIN
•GTO
•グローリー・デイズ
•凍らしたヨーグルト
<MAMA.>
•MARIA
•RAIN.
•BLACK DOG.
•Psycho
SE. Mariana
•Nightmare
•命日
•ヒステリア
<Royz>
•ANTITHESIS
•Killing Joke
•クロアゲハ
•丸の内ミゼラブル
•INCUBUS
•キュートアグレッション
•eve:r
•GIANT KILLER
■KHIMAIRA vol.3
7月26日(金) 池袋EDGE
OPEN17:00 / START17:30
<出演>
DaizyStripper【SPECIAL GUEST】
HOLLOWGRAM【GUEST】
CHAQLA.
ヤミテラ
HOWL
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【チケット料金】
前売り:\4,800(税込)/当日券:\5,500(税込)
※オールスタンディング ※入場時ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可・営利目的の転売禁止
※チケットはスマチケのみ
【イープラス一般発売中】
https://eplus.jp/sf/detail/K000000287
<受付期間> ~2024/7/25(木)18:00
■KHIMAIRA vol.4
8月18日(日) 池袋EDGE
OPEN16:30 / START17:00
<出演>
201号室
RAN
KIRA
裏切り者には制裁を
トリカブト
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【チケット料金】
前売り:\4,800(税込)/当日券:\5,500(税込)
※オールスタンディング ※入場時ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可・営利目的の転売禁止
※チケットはスマチケのみ
【イープラス先行プレオーダー】
https://eplus.jp/sf/detail/4131230001-P0030001
<受付期間> 2024/6/29(土)22:00~2024/7/7(日)23:59