【KHIMAIRA vol.8】ライヴレポート◆2025年6月14日(土)池袋EDGE◆最も親和性の高い6バンドによる、それぞれの「ヴィジュアル系とは?」の答えをぶつけ合った美しき闘い

VISUNAVI Japan主催のイベント『KHIMAIRA』が、池袋EDGEを舞台に6月13日、14日、15日にて開催された。今や、ヴィジュアル系シーンには欠かせない愛されるイベントと化している『KHIMAIRA』だが、今回の3daysも全日見事にSOLD OUTを記録。ナンバリングシリーズでいうところのvol.7、vol.8、vol.9にあたる今回は、池袋EDGEにて行われる3daysというところをとってみても“原点回帰”とも言える重要な位置づけとなっていた。
ここでは3daysの中日に、“トリ確定”となっていた色々な十字架をはじめ、鐘ト銃声、umbrella、201号室、そして『KHIMAIRA』初参戦となる広島発のZ CLEARと名古屋を拠点に活動中のNETH PRIERE CAINといった全6バンドが集結し、火花を散らした『KHIMAIRA』vol.8の模様をお届けする。
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鐘ト銃声
闘いの火蓋を切ったのは、《鐘ト銃声》。前日に発表があった通り、狂ヰ散流(Vo)と百合子(Gt)が体調不良による出演見送りを受けて、かねてより関係性の深い黑猫より或花(Vo)とヒナタ(Gt)をサポートに迎えての出演となった。
まずは何よりも、このような事態にも関わらず出演を決めた気概と、そこに誠意をもって力を貸した仲間に敬意を表したい。

幕が開くのを待たずして演奏を開始し、「メンバーがいないからって、サポートだからって、舐めてんじゃねーぞ!」と或花が気合いを露わにして始まった「東京都無職小林アキヒト(28)」から、口先だけではない前衛的なライヴを展開。「午前0時の匿名希望」「東京解放区」と間髪入れずに畳みかけた重厚感あるサウンドにおいては、この日は心なしかリズム隊の要ぶりをより強く感じられた。

▲潤-URU-

▲詠真
「今日このような大ピンチの中、助けてくれた2人にまずは感謝してくれ。ありがとう!こんな素敵な2人に鐘ト銃声としてどんなお礼をしたらいいか、お前らのでっかい声をいただきたいなと。俺らは今日そう思って『KHIMAIRA」、勝ち取りに来ちゃいました!」と潤-URU-(Ba)が食ってかかる意気込みを伝え、「私ノ死ニ方」「赤いリズム」とラストまで駆け抜けていった。

▲或花(黑猫)

▲ヒナタ(黑猫)
遜色ない熱気を肌身で感じ、バンドのアクシデントにこそ起こる団結力たるや凄まじいものだと感慨にふけっていると、詠真(Dr)が「まだ時間あるって!」と呼びかけて急遽「私ノ死ニ方」を追加。
図らずもヒナタとの兄弟共演ともなった詠真が浮かべていた笑顔もさることながら、鐘ト銃声のステージを時間いっぱい戦い抜く姿が実にあっぱれであった。

NETH PRIERE CAIN
“古の継承者”を掲げる《NETH PRIERE CAIN》が導いたのは、王道耽美な世界。1曲目の「棘」からそれを発揮し、「「カトレア」」では樹(Vo)に合わせて皆が一斉に踊りだして会場は宮廷舞踏会と化した。

オルガンなどの音使いや音域の広い歌声と、様式美を感じさせるステージングで見せた「AVALON〜約束の地を求めて〜」や、シンフォニックメタルなサウンドで圧倒した最新曲「オルレアンの少女~la Pucelle d'Orleans~」ではヘッドバンギングや祈りを見せるフロアも相まって没入感の高いライヴで魅了していく。

▲樹

▲珠璃

▲剣路

▲Maya(Support Ba.)
「普段は名古屋を拠点に“ジーザス”と言いながら祈りを捧げていますが、俺たちが凶暴性を持ち合わせた生き物だということをわからせていこうと思いますので、最後までよろしくお願いします」と樹が時折笑いを交えながらも上品に挨拶すると、「『KHIMAIRA』はバンドの闘争心を出すイベントだと思っている。最高の爪痕を残す」と意気込みを露わにして後半戦へと突入。
逆ダイが起こった「跡」、祈りをささげた「「ホオヅキ」」といった、ヴィジュアル系の古き良き楽曲スタイルに現代テイストを巧みに織り交ぜながら継承するアプローチは実に鮮やか。

包容力のある豪快なサウンドで聴かせた「VALHALLA-Epilogue of the world-」でフィナーレを飾り、耽美という美しさの中に、“罪人の願い、祈り”というバンド名の意味やコンセプトに準えた、熱い魂の部分もしっかりと魅せつけて会場全員の記憶にその存在を強烈に刻み込んだのである。
201号室
常に自らが音楽をやる“意味”を軸に据えたステージを見せる《201号室》。

▲KEN
もちろんこの日も例外になく、「今回の『KHIMAIRA』の裏テーマは、“ヴィジュアル系ってなんだ?”って聞いた気がする」とKEN(Gt&Vo)が話したのはMCでのことだったが、そこに対する答えを、メンバーの個性引き立つグラムロックな力のある音楽を通して見せつけた。
冒頭からエッジの利いたサウンドを轟かせた最新曲「インカントマーダー」、さらに「デスコ」と続け、ROCKに対する真摯な姿勢が覗けた「破滅のポエム」にこそ、この日201号室が『KHIMAIRA』の舞台にかけた“意味”が凝縮されていたと言っても過言ではない。

この曲の演奏前にKENは、かつてメジャーシーンで音楽活動をしている友人から「ヴィジュアル系は“やめた方がいい”」という趣旨のことを言われた過去を振り返った。
彼らに悪気はないと理解しながらも、KENはそれに対する答えを見出すように「ヴィジュアル系の未来が、全部が全部明るく見えるわけではなかった――だからやってんだよ、ヴィジュアル系を」とステージから言い放ったのである。

▲Hiroto

▲シンナ
さらに、音楽シーンという広い視野でのし上がろうという意欲を「Fetishism」「Lovelet」の歌もの2曲を披露することで堂々と示してみせた。

KENが鋭い目つきでフロアを捕らえて歌いあげた「BlackMagic」と、「デスコⅡ」ではHiroto(Gt)のギターソロも冴えわたってスリリングに高揚していく。そして、「武器はいらない」と強さを見せつけた「刃渡り30mm」をかまし、最後まで「生きろ。死ぬな!」と熱い胸中を爆発させていた。
umbrella
雨音が響くSEに乗せて登場した《umbrella》。唯(Vo&Gt)の透明感のある歌声と、一音一音が繊細なアンサンブルを紡ぎ出した「レイニングレター」が抜群な浸透力を持った幕開けを飾り、続いた「dilemma」では唯が挑発気味に小さく手招きしてオーディエンスを躍動させていく。

その肝となっているのは、将(Dr)が叩き出すタイトなリズムをはじめ、柊(Gt)と春(Ba)のスキルフルなプレイによる緻密なサウンドメイクだ。“茜色に染まる”というフレーズに攻撃性が絶妙にリンクした「【愚問】」や、「群」ではヘッドバンギングも広がりハードな一面も持ち合わせて加速の一途を辿る。極めつけには、「全員でこい! そうじゃないと意味がない。

▲唯

▲柊

▲春

▲将
それが、バンド全員が見たい景色だ!」と唯が焚きつけ、柊が背ギターで演奏をはじめた「Witch?」でステージに漂う魅惑的なオーラに操られるように一層白熱していった。
クライマックスに用意していたのは、唯が振るうタクトに合わせてシンガロングを起こして感極まる情景を生み出した「アラン」。そして、ヴィジュアル系業界にとって欠かせない存在になってきていると語った『KHIMAIRA』へ、「これからもいろんな絆を築いていってください」とエールと期待の言葉をかけた唯。

ラストに届けたのは、ギターをつま弾きながらメンバー1人ひとりに向き合うように足並みを揃えて歌い上げた圧巻のバラード「「管」」。完成度の高いオルタナティブロックで魅せたステージには、活動16年目を迎えてもなおバンドのフェーズを上げ続けている風格が存在していた。
Z CLEAR
《Z CLEAR》のライヴは、〈バカになっていいじゃない 死にたい夜を共にfuck off〉とステージ上にも標語のようにして掲げていたキラーフレーズが炸裂する「ぶちROCK」を起点に、清々しいまでの激走を見せた。

その中でAKIRA(Vo)が「俺は生半可な気持ちでROCKはやってない」と説く姿は、メンバーと童子(ファン)を率いる総長さながらの威勢と貫禄を放ち、たちまち結束力を生み出した。

▲AKIRA

▲みやこ

▲トミー

▲こーちゃん
慕情溢れる「「ミサンガ」」に続いたのは、AKIRAがフラッグを担ぐと同時に故郷・広島を背負い闘う気概を歌いあげた「広島」。
さらに「アンタらが腹減ってるところにクソかっこいいROCKをぶち込んでやるけえのぉ!」とメンバーの呼吸を一つに演奏を始めた「JUNKIE」と、次に控える色々な十字架の“一輪車に乗る曲”を引き合いに出しながら「俺たちはバイクに乗る曲がある」と「八丁左回り」をループ。
この際、「俺の背中についてこい」と頼もしさを見せたAKIRAも印象的だったが、そんな彼がアコースティックギターを持ってラストに届けた「枯れない華」も非常に心に沁みた。それは、演奏前に語っていた「愛されるって、幸せだなって思った」と、愛を注いでくれた童子と『KHIMAIRA』オーガナイザーである山内氏への感謝の思いを涙ぐみながら話していた姿も相まってのことだったのかもしれない。

荒くれ者が曝け出した本音は決して弱さなどではなく、本当に強い人間だからこそ見せられる一面だった。田舎者と侮るなかれ。人情に厚く執念深いZ CLEARには、ちょっとやそっとじゃ壊れないエンジンが積まれているのだから。

色々な十字架
確定されていた“トリ”の使命を果たすべく、《色々な十字架》が満を持して登場! 登場して一度はそれぞれのパートのポジションにセットするも、エレクトロニカなイントロが鳴り出した瞬間にmisuji(Ba)とdagaki(Dr)はサドルを、tacato.(Gt)とkikato(Gt)は〈太鼓の達人〉のバチを持ってスタンバイして始まったのは、“一輪車に乗るミュージカル曲”「GTO」だ。
初っ端から面食らうほどの情報過多ぶりが痛快で、「耽美ヶ原小学校 校歌」や「かなり耽美(決定)」でも惜しみなく“90'sヴィジュアル系リバイバルバンド”たる所以を感じさせる楽曲を繰り出していくのだが、プロジェクターによって映し出されてる言葉(歌詞)のどれもがなんとも道徳から外れていて、崇高な楽曲とのシュールなマッチングがたまらない。

逆を返せば、彼らが忠実に形作る耽美でありデカダンな空気を持った音使いや音楽性こそ、ヴィジュアル系史における偉大な功績とすら思えてくる手法だ。

さらに、タオルビショビション(客席)とシートビショビション(ステージ)による“ビショビションラップバトル”を繰り広げることとなった「汗拭きシートで冬来けり」がライヴで初お披露目された。「気合いが入っている今日、やるしかないでしょ!」というのは、tink(Vo)談。

このサプライズには“しし者”(ファン)も大興奮の様子で、ラストスパートはキャッチーなメロディアスソング(だがタイトルが)「TAMAKIN」を挟み、ノスタルジーに浸った「LOST CHILD」では、“大きすぎるカインズホームでガキが迷子になる”という歌詞と至極のバラードとで、もはや脳内はバグ状態。いや、これは凄すぎる……と感服したところで、ライヴは締めくくられた。

▲dagaki

▲misuji

▲kikato

▲tacato.
そして、こちらも予め公表されていた再降臨(アンコール)。「こんにちは!色々な十字架・再降臨と申します!――『KHIMAIRA』、合成する準備はできてるのか! Vol.9に繋げられるのか!」とtinkがアジテートして「凍らしたヨーグルト」を披露。キマイラになぞらえてか、kikatoが〈たべっ子どうぶつ〉で2つを“合成”して食べる場面もありつつ、tinkの「明日も楽しんで!」の一声でエンディングを飾るまで、始終超満員の観客を巻き込みながら実に耽美な大スペクタクルを見せていた。

▲tink
文化というのは、継承するものと進化させるものの両方があってこそ繁栄していくもの。ヴィジュアル系というカルチャーの中で生きる人々のバイタリティーが可視化される『KHIMAIRA』というイベントにおいては、そこに携わる誰もがヘッドライナーとなる。そこにいる人の数だけある美学が衝突する闘いは、また一つヴィジュアル系という歴史に刻まれたのだった。
取材・文:平井 綾子
撮影:近藤 晴香

KHIMAIRA-the beautiful scum-
2025年9 月23日(火・祝)
OPEN 15:15 / START 16:00
恵比寿リキッドルーム
【出演】
Verde/(SPECIAL GUEST) / mitsu(SPECIAL GUEST)
Azavana / KAKUMAY / CHAQLA. / MAMA. / まみれた
前売り ¥6,000(税込) / 未成年(18歳未満)¥500(税込) オールスタンディング ※入場時ドリンク代別途必要
▼2次プレオーダー受付 7/6(日) 23:59まで
【受付URL】https://eplus.jp/sf/detail/4166030001
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